週に3日は事業所で働き、2日は山でツアーガイド――。人材確保のため、こんな働き方を掲げた愛知県豊田市稲武地区の会社に大学新卒者ら4人が入社した。マウンテンバイク(MTB)のコースを造るといった豊かな自然を売りにした取り組みが魅力に映っているようだ。
車のシートカバーを製造するトヨタケ工業(本社・同市桑原町)に昨年夏から今年4月にかけて、ドイツ・ミュンヘン出身など20、30代の4人が正社員として入社した。現在は、研修を受けている。
始めた背景には長野、岐阜県境に接する稲武地区の急速な過疎化がある。稲武地区は現在2270人と、この10年で2割減った。同社の従業員は110人で高齢化が進む一方、高校、大学の新卒者の採用ができない時期が続いていた。
2015年に社長になったオーナー家出身の横田幸史朗さん(43)が中心となって、地区外から若者を呼び込もうと、建設など四つの会社・団体とともに「OPEN INABU」実行委員会を結成。山間部で働く魅力を伝える活動を共同で始めた。
16年度は、会社見学に農作業を組み合わせた体験会や林道の補修に参加者を募り、毎回10人以上が加わった。その結果、「稲武で働くのなら、『いっそ自然を満喫できる生活を送りたい』という声がとても強いことがわかった」と横田さん。
考案したのが平日3日間は会社の事業所で、2日間は自然の中でガイドをするという働き方。稲武の険しい地形を生かし、ツアー客を招き入れようと、横田さんの趣味でもあったマウンテンバイクのコースを造り、実践することにした。
コースは豊田市稲武町と愛知県設楽町にまたがる山。所有する稲武町の自治区や住民の許可を得て、17年度からは「OPEN INABU」の活動もしながらコースの造成を始めた。
草を刈って倒木を移動し、バイクが通れるよう雑木の枝を払う作業。毎月1、2回行い、その都度、集まった十数人の参加者に目的の趣旨を伝えた。
うち一人、遠藤颯(はやて)さん(23)=神奈川県川崎市出身=は東洋大学4年生だった昨年夏、IT企業に内々定を得ていたが、この作業に参加してトヨタケへの就職を決めた。「不安もあるが、好きな自転車に関われることやバランスのある生活をできるのが魅力だった。挑戦のしがいもあり、生活の不便さは気にならない」
稲武出身の女性とドイツで結婚し、帰省中にこの取り組みに賛同して入社したロバート・シュイッツアーさん(34)は「山、川と自然が美しく、温泉があり、食べ物もおいしい。ガイドの仕事も楽しみだ」。
コースが本格オープンするのは夏。造成した森の中の4キロと林道を走る計約10キロ。採用した4人が今後、ガイドとなり、案内をする。横田さんは「これは稲武の地の利を生かし、魅力を高める第一歩。他にも様々な取り組みをして、新しい仲間を増やしていきたい」と話している。
コースは普段、立ち入り禁止で、場所は公表していない。問い合わせは、実行委のウェブ(
http://open-inabu.main.jp/
)へ。(臼井昭仁)