各国の茅葺(かやぶ)き文化について話し合う世界会議が5月、岐阜・白川郷などで開かれる。茅葺きはすっかり珍しくなり、天皇の代替わりに伴う皇室行事「大嘗祭(だいじょうさい)」でも社殿の屋根からなくなろうとしている。
「茅」とは屋根をふく草の総称だ。日本ではススキが一般的で、アシや稲・小麦のわらを使う地域もある。高度成長期まで日本の原風景として定着していたものの、世界会議の事務局、安藤邦廣・筑波大名誉教授(建築学)によると、茅葺き屋根は現在10万棟弱に減ったとみられる。
消滅の危機は日本だけではない。その重要性を見つめ直そうと、国際茅葺き協会が2011年に発足した。世界会議の日本開催は初めてで、英、独、オランダなど6カ国の専門家が来日する予定だ。5月18日から5日間、白川郷や京都府南丹(なんたん)市で、各国の現状や技術的な課題について意見交換する。欧州では、伝統文化としてのみならず、環境保全や資源問題としても茅葺きが見直されているという。
安藤さんは「茅葺きは、草原の文化に共通の建築だ」という。日本の特徴は「圧倒的な厚さ」。30~45センチの欧州に比べ、日本は総じて厚く、白川郷の合掌造りのように約1メートルもある例もある。台風や多雨、寒暖差の激しさゆえの防水・断熱効果に加え、肥料の備蓄庫としての役割が茅葺きを分厚くした。
傷んだ分は肥料に回され、茅葺きは「宝の山」として農耕を支えた。ところが戦後、化学肥料が普及したため、茅葺きは取り壊されたり、トタン板で覆われたりするようになった。
宮内庁は昨年12月末、大嘗宮の建築計画で、前回は社殿で採用した茅葺きを、今回は費用と工期を考え板葺きにすると発表した。神社界から伝統に反するとの批判の声が上がり、安藤さんも宮内庁に計画の練り直しを訴えた。
大嘗祭は、稲作農業を中心とした日本に古くから伝承されてきた収穫儀礼に根ざしているとされる。「茅葺きは削れないはずだ。宮内庁の決定は、歴史を顧みない社会の象徴だ」
そう話す安藤さんは茅葺き民家の保存と活用などを通じ、文化の継承を訴え続けてきた。一つの屋根をふきかえるだけでも重労働だが、協働の喜びがある。荒れた「草原」「水辺」の利用が促され、環境保全の効果もあるという。
安藤さんは「茅葺きを中心とした自然のサイクルは、日本独自に発達した生活文化。持続可能な社会のモデルであることを国内外に発信したい」と話す。(編集委員・藤生明)