取材考記
「家族と安定がほしい」心を病み、女性研究者は力尽きた
自死した我が子の手記を、書籍にまとめる。それは切ない作業だったという。
傑出した成果をあげながら大学への就職がかなわず、2016年に43歳で亡くなった仏教研究者。彼女のことを記事にできたのは、その本「西村玲(りょう) 遺稿拾遺」があったからだ。
経済的に追い詰められていく過程、自ら命を絶つまでの心の揺れが事細かに記されていた。両親が以前に編集者の仕事をしていたからこそ生まれた、貴重な記録だ。
西村さんの例は氷山の一角だろう。ツイッターでは「こんなに優秀な研究者がなぜ」といった嘆きや、同様の研究者を自分も知っている、との投稿が複数あった。
研究者の苦境は、今に始まった話ではない。新書「高学歴ワーキングプア」が出版されたのは、07年だ。国の政策で博士課程への進学者が増えたのに、大学教員のポスト数は不十分。結果、博士号を持つ「ポスドク」の多くが定職に就けずにいる――。そんな実情を紹介し、話題を呼んだ。
10年以上が過ぎ、「役に立た…