刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡すことを可能にする香港政府の「逃亡犯条例」改正案に反対する大規模なデモ行進が9日、香港であった。主催した民主派団体によると、1997年の香港返還以降、最多の約103万人(警察発表は24万人)が参加。条例案をめぐり中国政府が香港政府への支持を表明してから初の大型デモで、中国政府に市民が「ノー」を突きつけた形となった。デモ隊の一部が暴徒化し、警察と立法会(議会)の敷地内などで衝突し、警察官ら4人が負傷した。
「中国への引き渡しに反対」「林鄭月娥行政長官は辞任せよ」。デモ隊は声を上げながら、改正案を審議する立法会(議会)までの約3キロを行進した。
改正案をめぐるデモは3月、4月に続いて3回目。参加者は1回目1・2万人(警察発表5200人)、2回目13万人(同2万2800人)で、今回はひときわ多い。
背景には、香港の高度な自治を保障する「一国二制度」が揺らぎ、香港が自由で安全な都市でなくなるとの市民の危機感がある。
香港は透明性が高い司法制度が確立している一方、中国本土では司法機関が共産党の指導下に置かれている。条例が恣意(しい)的に運用されれば、民主活動家らが中国に引き渡され、中国を批判する集会も香港で開けなくなるといった不安が共有されている。
デモ隊には若者の姿が目立った。5年前に雨傘運動による政治改革が失敗後、若者は香港の民主化が優先だと主張。中国本土の民主化を掲げてきた中高年層と対立し、民主派の運動から遠ざかっていた。
ところが、今回は民主派内の各団体が足並みをそろえ、SNSなどを駆使して積極的にデモへの参加を呼びかけた。雨傘運動で活動した元学生団体幹部の羅冠聡氏は「社会の雰囲気が雨傘運動の直前の状況に似てきた」と語る。
改正案が可決されれば、香港で暮らす外国人も中国本土に引き渡されるリスクがある。経済界には、海外から香港への投資が減り、ビジネスに悪影響が出かねないとの懸念があり、デモ参加者を押し上げたとみられる。
デモ行進は9日夜に終わったが、若者を中心に数千人規模の参加者が立法会の敷地内や付近の路上に座り込んだ。その一部が10日未明に警察と衝突。立法会の鉄柵をなぎ倒して、警察に投げつけた。一方、警察も催涙スプレーを発射して応じた。警察によると、警察官3人と撮影していたカメラマン1人が負傷した。
警察は立法会を封鎖してデモ隊を排除した。一部の参加者が周辺の幹線道路にとどまり、警察とにらみあったが、10日朝までに解散した。
■中国政府は強…