防衛省が陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備先を対象に、新たな交付金を検討していることがわかった。配備候補地の自治体に受け入れを促す狙いがある。ただ、交付金と引き換えに配備を迫っていると取られかねないとして、政府内でも慎重意見が出ている。
複数の政府関係者が明らかにした。防衛省によると、自衛隊の特定の装備品や部隊の配備・導入を受け入れた自治体を対象にした交付金の例はないという。
イージス・アショアをめぐっては、配備候補地の陸上自衛隊新屋(あらや)演習場(秋田県)とむつみ演習場(山口県)の周辺住民の間に安全性への懸念が根強く、自治体も受け入れに慎重な姿勢を崩していない。政府内に「配備の負担をお願いする地元への説得材料として(交付金を)示し、受け入れに向けた地ならしをしたい」との考えがある。
防衛省は昨年10月から、両演習場周辺でレーダーの電磁波による人体への影響や近くの水源への影響などを調査。5月、周辺住民の健康や付近を飛行する航空機などに「影響はなく、安全に運用できる」とする結果を公表した。
自衛隊や在日米軍の基地周辺の自治体には、「防衛施設周辺生活環境整備法」に基づき、部隊の運用や基地・施設が原因で騒音、土地の損傷など生活環境に影響が出ている場合、防音工事や道路改修などに国から助成金や交付金が支出される。2019年度予算にはこうした経費として1078億円が計上されている。だが、生活環境への影響があることが支出の要件となっており、ある防衛省幹部はイージス・アショアについて「『生活環境への影響はない』と強調して受け入れをお願いしているわけだから、環境整備法を根拠には金を出せない」とする。
そこで浮上しているのが、配備の受け入れそのものに新たな交付金を出す案だ。その場合、根拠法令を新たに整備する必要がある。
イージス・アショアをめぐっては、調査報告書に誤りや不備が相次いでいる。政府関係者からは「このタイミングで提案しても『金で受け入れを迫るのか』とかえって地元を硬化させる」「イージス・アショアの配備先だけを特別扱いする制度をつくったら、今後、自衛隊や米軍が部隊や装備を配備したり導入したりするたびに地元から交付金を求められる前例になりかねない」と懸念の声も出ている。(編集委員・土居貴輝)