日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(65)が中東オマーンの販売代理店に支出した日産の資金約5億6千万円を自らに還流したとされる特別背任事件(オマーンルート)をめぐり、前会長が、仏ルノーの資金についても約3億5千万円を還流させていたことが、東京地検特捜部の調べでわかった。いずれもCEO(最高経営責任者)の裁量で使える資金が原資になっていた。地検はルノーで先に作った仕組みを日産にも適用したと、公判で立証する方針だ。
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友人への見返り、端緒に ゴーン氏事件、地検の主張判明
今回判明した地検の立証予定内容によると、ゴーン前会長は2011年3月、日産の中東担当役員(ルノー出身)に対し、ルノーの「CEOボーナス」に倣って、日産でも自身の権限で使える「CEOリザーブ」から、オマーンの販売代理店「SBA」に本来の契約に基づかないボーナスを支払うよう指示した。
そのうえで前会長は17年4月、東京都内での会食の機会などに、日産のCEOリザーブからの資金と、ルノーからのCEOボーナスのそれぞれ半額を、SBAから前会長が実質保有するレバノンの投資会社「GFI」に送金して還流させることで、SBA側と合意した。
合意を受け、前会長の資産管理を任されていたレバノン人弁護士はSBAのインド人幹部に還流額をメールで伝達。インド人幹部は還流分を「株主口座への送金」と会計処理し、自分の口座を経由させるなどしてGFIに送った。弁護士から入金の報告を受けたゴーン前会長は、一部の資金を、息子が関与する米国の投資会社「ショーグン・インベストメンツ」に送金するよう指示した。弁護士が17年8月に死亡した後は、弁護士の助手が実務を引き継ぎ、前会長にメールで入金を報告していたという。
地検は、17年と18年に日産からSBAに500万ドルずつ支出した計1千万ドル(約11億1千万円)の半分の計500万ドル(約5億6千万円)がGFIに還流したとして、前会長を4月に会社法違反(特別背任)罪で起訴した。17年にルノーからSBAに送金された計570万ユーロ(約7億3千万円)の半分の285万ユーロ(約3億5千万円)も還流していたと立証することで、起訴内容を補強する方針とみられる。
仏検察当局も、ルノーからSBAに流れた資金の解明を進めている。