一寸先は闇の幕末維新の動乱期、日本海の島で庶民による「無血革命」があった。今の島根県隠岐の島町にあたる隠岐諸島の「島後(どうご)」。知る人ぞ知るこの「隠岐騒動」にもっと光をあてようと、150周年を機に町の有志が漫画冊子を作った。騒動では松江藩が「悪役」になるが、松江出身のあの俳優も黙っていない。(編集委員・藤田直央)
隠岐騒動は明治維新直前の1868年3月、島根半島から日本海を67キロ北上した離島の島後で起きた。徳川幕府の天領だった隠岐諸島を預かる松江藩からの「郡代」を島民らが追い出し、「文事」「軍事」「算用(財政)」などの部門を整えて80日間の自治をしたのだ。
「1871年のパリ・コミューンより早い人民政府」「天皇の名の下に幕藩体制を拒み決起した維新の先駆け」――。歴史通の間では様々に語られる。
隠岐の島町の人々が今回作った8ページの漫画のタイトルは「優しい革命 隠岐騒動」だ。
島後に現れた外国船への松江藩士の手ぬるい対応や高い年貢に、島民たちが不満を持つ。自分たちで島を守るため、学問と武術を学ぶ施設を作ろうとしたことが、自治につながった。流血なしに追い出した郡代には、米2俵、酒2斗の餞別(せんべつ)を贈った……。こんなエピソードを描いた。
町の人たちの話では、隠岐騒動は100周年の時には顧みられなかった。当時は1960年代後半の高度経済成長期で昔を振り返る雰囲気はなく、事件の特異さ故に歴史的な位置づけが難しく、小中学校でも教えられていなかったという。
十数年前からは、地元の「ふるさと教育」で扱われるようになった。今回、町の予算で漫画を作るのは、いわば島おこしだ。隠岐騒動を「日本の歴史でとても驚くべきこと」(漫画)としてより易しく伝え、少子高齢化が進む島で子どもたちの愛郷心を育てると同時に、観光にも役立てる狙いがある。
漫画は「彼らのあつい志と団結力、人を思いやる心は今も隠岐の人々に受け継がれている」と結ばれる。町によると、今月中に5千部を町内の小中学校や観光施設に置き、役場のホームページからもダウンロードできるようにする。
佐野さん「単純な善悪では語れぬ」
隠岐騒動には、松江出身の俳優…