「4番は、やっぱ『もんりー』やろ」。6月21日の昼休み。3年E組の教室に、奈良県大和高田市の高田商野球部の3年生21人が集まった。25日の記念試合のメンバーを決めるためだ。監督ではなく、選手たちで打順や選手交代のタイミングも決める。中心になるのは、前日にあった奈良大会のメンバー発表で名前を呼ばれなかった選手たちだ。
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「もんりー」こと森本太我(たいが)君は、満場一致で4番・指名打者で出場することになった。4番を打ちたいと、心の中で思っていた。みんなが勧めてくれたのが、うれしかった。
森本君は、チームのムードメーカー。少し高い声がよく通る。小学生の時からの「もんりー」の愛称を気に入っている。
大きな声を買われ、2年生の秋以降、チームの「審判長」を任されるようになった。練習前のアップでする「審判練習」の指揮をとるのが務めだ。
審判練習は、赤坂誠治監督(42)の「練習試合で審判をする時、自信なげなジャッジは相手に失礼だから」という考えで日頃からしている。プレーボールから始まり、ストライク、フェア、ホームラン――。試合中の一通りのジャッジを全員が大声で唱える。
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6月25日の記念試合。3年生の選手とマネジャーは、1台のバスに乗って佐藤薬品スタジアムへ向かった。普段の遠征はAチームとBチームに分かれて行く。
Aチームには2年生も多くいて、この日のように3年生だけで同じバスに乗るのは特別だ。監督不在のバスの中は、まるで遠足に向かうような雰囲気だった。「(外野席に)ほうりこもうな」。森本君は隣の席の永井栄太君とは、そんな話をした。
試合前、下級生がグラウンドを整備する中、3年生は外野でいつものアップをした。審判練習がはじまると、森本君が3年生の前に立って、声出しの「プレーボール!」。梅雨入り前の青空に、大声が吸い込まれた。
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3―2で1点をリードして迎えた七回表、2死一、二塁。打順が回ってきた。ここまでの3打席は無安打。「もんりー! ここしかないぞ!」「後悔すんなよ!」。ベンチからひときわ大きな声援があがる。
打席に、伝令の三戸浩輝君が走ってきた。「思いっきりふれ。ここで打たないと、気ぃ悪いぞ」。言葉は厳しいが、冗談だとすぐに分かった。緊張がほぐれた。
とらえたのは、内角低めの直球だった。レフト前に運び、ガッツポーズ。うれしさがこみ上げた。
仕事で忙しい両親は、時間を作って球場にきた。小学6年生の弟と、祖父母も応援にかけつけた。「ようがんばったな」。帰り道に食べた「天下一品」のラーメン、こってり大盛りは、いつもよりおいしかった。