6月25日午後6時5分。中島雄大(ゆうだい)君は、佐藤薬品スタジアムの一回裏のマウンドに上がった。正直、先発はいやだった。けど、あみだくじで決まったからにはしょうがない。
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奈良・高田商の3年生21人の中に、投手は5人いる。記念試合は全員で継投しようと、21日の昼休みにくじを作った。ドキドキしながら線をたどると、先発だった。つとまるかどうか、不安だった。
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2017年1月下旬、中島君が中学3年生の時。高田商は春の選抜大会出場が決まった。二つ上の兄、翔大(しょうだい)さん(19)は高田商の野球部。家族は「受けるだけ受けてみろ」と中島君にも高田商の受験を勧めた。
その年の3月。代走として甲子園のグラウンドに立つ兄の姿は、家にいる時とは違い、堂々としていた。あこがれのような気持ちを初めて感じた。
いざ入部すると、中学とは違う練習のスピード感に驚いた。自分でも練習についていけているのか分からないまま、くらいついた。2年生になると、試合で登板する機会が増えてきた。
3年生の投手5人は、ライバルだけど、それとも少し違う。お互いに足りないところを言い合って、一緒に高め合っていると感じる。冬には5人で奈良高専との合同練習に励み、下半身を重点的に鍛えた。
20日の奈良大会のメンバー発表で名前を呼ばれた10人のうち、3年生投手は、津田淳哉君と樋口雄斗君の2人。悔しかったが、受け入れた。ベンチ入り出来る残り10人は大会直前に決定される。「まだこれからできることはある」
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佐藤薬品スタジアムのマウンドに立つ中島君の背中には、高校に入学してから初めての背番号1。重たかった。初回は、1死から奈良高専に先制点を許した。緊張して「自分が、自分が、と焦ってしまった」。
「まわり見渡してみろ!」。三塁手の永井栄太君の声が聞こえた。ダイヤモンドには3年生がみんないる。気持ちが楽になった。捕手の桂元輝(げんき)君は、中島君の直球が捕まっているのを見極め、変化球を多めにリードした。「まわりに助けられました」。振り返れば、三回を投げ、2失点したが、7奪三振だった。
三回裏の守りを終えると、背番号「1」が縫い付けられたユニホームを脱ぎ、継投する岩崎友輝君に渡した。岩崎君もまた、自分のイニングを終えるとユニホームを次の投手に渡した。この日、高田商のマウンドには、5人のエースが立った。