「いつかは小説を書いて出版してみたい」。長年抱いていた夢を91歳の女性が実現させた。東京都文京区の星野花子さん。初めて書いた小説3編が、短編集「いなくなった人」(新風舎)として来月、出版されることになった。星野さんは「90歳を過ぎても夢はかなうということを、同世代の人に知ってもらい、元気を出してもらえたら」と話している。
東京出身で、高等小学校卒業後、百貨店に勤め、26歳で結婚。娘2人を育てた。夫は7年前に亡くなり、今は孫が4人と、2歳の男の子のひ孫が1人いる。毎朝7時に起床し、近所の町内会掲示板を見に行くのが日課だ。同居している長女の林佳子さん(63)は「少し耳が遠くなったことを除けば生活リズムは昔と変わらず、本当に元気」と話す。
星野さんは50年近く前から、身の回りで起こった出来事を題材に随筆を書き始めた。昨春、版元の新風舎が主催する文学賞を知り「小説に挑戦するいいきっかけ」と応募を思い立った。
居間の机の上に原稿用紙を広げ、ボールペンで調子のいい時は1日約10枚書き進んだ。登場人物にモデルはなく「空想で書いているうち、自然と結末が思い浮かんできた」という。
25歳の女性が、旅の途中で出会った若い男性に「死ぬなら一緒に死のうか」と言われ、不思議なドライブを共にする「一面の白雲木(はくうんぼく)」など3編を約3カ月で仕上げた。
作品は選から漏れたものの、同社の西岡祐司・出版プロデューサー(50)の目に留まった。「ちょっとミステリアスだが、あったかい内容。軽快なテンポで、とても高齢者の書いた文章とは思えなかった。感覚が若い」と話す西岡さんの勧めで、出版が実現した。
次の作品には、若い女性が福井県から東京の米問屋に奉公に行く話を温めている。今度は戦時中の疎開経験がヒントになっているという。
短編集は10月5日発売で、定価900円(税別)。問い合わせは新風舎(03・5775・5040)。【早川健人】
毎日新聞 2005年9月17日 東京夕刊