三洋電機の古瀬洋一郎副社長が突然辞任した背景には、6月下旬に就任したばかりの野中ともよ会長との経営戦略をめぐる深刻な意見対立がある。とりわけ、三洋電機クレジットの扱いで見解が食い違った。
三洋電機は三洋クレ株の売却を含む提携交渉を三井物産を軸に進めており、保有株約52%のうち約30%を売却し、連結対象から外す考えだ。三洋電機は、08年3月期までに有利子負債1兆2000億円を半減させる目標を掲げている。三洋クレを連結対象から外せば3400億円の負債削減が可能になる。
野中会長は9月28日の会見で売却先について「国内の大手グローバル企業と提携交渉中」と明言した。会見前の取締役会で「三洋クレの質問を受けても、決まった事実はないと回答する」と確認していた。野中会長は会見に出ないはずだったが、予定を変えて出席しての発言だったという。
だが、交渉が固まらない段階の不用意な発言として、古瀬副社長は、「経営者としての配慮に欠ける」などと不満を抱いたようだ。会見後、古瀬副社長は「会長の意中の企業との提携を進めるために予定を変更して会見に出たのでは」と周囲に漏らしていた。
三洋クレは、06年3月期の連結決算で70億円の最終(当期)黒字を見込む。三洋にとって現金を生み出す数少ない“虎の子”の事業で、「売り急ぐ必要はない」が古瀬副社長の見解だった。
野中会長が三洋クレ株売却に前のめりの発言をしたのは、古瀬副社長の機先を制する狙いもあったようだ。野中会長は就任後3カ月余りたつが、不採算の白物家電事業の再編など有効な再建策は打ち出せていない。三洋クレの売却を相手先も含めてにおわし、改革の進展を印象づける狙いがあったとみられる。
三洋は、半導体事業などの不振が予想以上に深刻だ。だが、“お家騒動”の表面化で、暗雲が垂れこめている。【前川雅俊、田畑悦郎】