【ジュネーブ藤好陽太郎】世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(新ラウンド)は、10日から開かれていた非公式閣僚会議で、農業交渉に関する主要な提案が出そろった。焦点の市場開放策では、関税削減の具体的な内容をめぐって農業輸出国と輸入国が激しく対立し、議論は平行線をたどったまま。米国、欧州連合(EU)などは来週中の会議再開も検討しており、12月の香港閣僚会議の大枠合意に向け、交渉は一段と厳しい局面を迎えそうだ。
13日には、WTOの貿易交渉委員会が開かれ、ラミーWTO事務局長が非公式閣僚会議を総括。11月中旬にも、香港閣僚会議の宣言案をまとめたい考えだ。
非公式閣僚会議では、米、EU、食糧輸入国で作るG10に加え、ブラジルなど途上国で作るG20も新提案を発表し、主要な4案が出そろった。特に、G20の新提案は国内補助金の削減率を明示したが、日本の削減率は80%で最も高い削減率のグループ。関税率を一定水準以下に抑える上限関税についても、先進国は100%、途上国150%とする考えを改めて示した。
新ラウンドは7月の中間原案作成を断念し議論が停滞していたが、米国が今月10日、反対してきた国内補助金削減を容認する譲歩案を発表。欧州委員会のマンデルソン委員(通商担当)が「米提案で、流れは大きく変わった」と高く評価するなど、交渉進展の気配も出てきた。
日本など食料輸入国のG10も、各国の農業事情によって関税引き下げ方式を選択できる案を提示したが、反対論が強く受け入れられない可能性が高い。コメなどを例外扱いする「重要品目」も今後の焦点となるが、米国は重要品目の数を農産物の1%に制限する案を提示。日本など輸入国側は「農業が壊滅する」(スイス)と反対し、対立は先鋭化している。
農業交渉で各国が妥協しなければ、工業分野の進展も望めない状況の中、仮に新ラウンドが破たんするような事態になれば、日本を含む農業輸入国の責任論に発展する可能性も指摘され始めている。