集団的自衛権の行使を現行憲法の解釈変更によって容認するかどうかが自民党総裁選の争点に浮上している。解釈変更に前向きな安倍晋三官房長官を、谷垣禎一財務相は「憲法改正が必要」と批判。改憲による行使容認論だった麻生太郎外相は、ここに来て安倍氏と同じ主張を始めた。「安倍・麻生VS谷垣」の構図だが、公明党は安倍氏の主張に反発しており、連立の結束にも響きかねないテーマとなっている。
集団的自衛権は、自国と密接な関係の国が他国から武力攻撃を受けた際、共同して防衛に当たる権利。政府は現在、憲法9条によって自衛権行使は自国防衛のための必要最小限度の範囲しか認められないとして、「保持しているが、行使できない」と解釈している。
これに対し、安倍氏は近著「美しい国へ」で、「日本の周辺国有事に出動した米軍の兵士が公海上で敵から攻撃を受けたら自衛隊は立ち去らなければならない。国際社会で権利はあるが行使できないとする論理がいつまで通用するのか」と疑問視。22日には「日本を守るために何をすべきか検討しなければならない」と、政府解釈を変更して行使容認を検討する考えを表明した。
安倍氏には、集団的自衛権行使を容認し、日米同盟の双務性を高め同盟関係をより強固にしたい思いがある。政府解釈を堅持するなら憲法9条を改正しなければ行使容認の道は開けず、相当な時間がかかるとの判断だ。
これに同調するのが麻生氏だ。「解釈などではなく、きちんと憲法を改正して対応しなければならない」と主張してきたが、27日のNHKの番組で「(行使)できるように解釈を変えた方が現実的だ」と安倍氏に歩調を合わせた。「安倍政権」でのポスト狙いと指摘されかねない方針転換だ。
一方の谷垣氏は、集団的自衛権行使の必要性は認めるものの「日本にとって極めて重大な決断。解釈(変更)で行うべきではなく、きちっと憲法改正で行うべきだ」と反論する。これまで安倍、麻生両氏と比べ改憲に積極姿勢は見せなかったが、あえて改憲論を唱え、対立軸にする構えだ。
公明党も、安倍氏の考え方に「押し通そうとするのなら連立は崩れる」(幹部)と猛反発している。【田中成之】
毎日新聞 2006年8月29日