「王将」に見立てた「クラウン」や「金将」に見立てた「プリウス」、「角行」に見立てた「ランドクルーザー」「MIRAI」が野球場を駆ける――。通常の将棋盤の1万5000倍近いスペースの上で、本物のトヨタ車を駒として使った「リアル車将棋」が8日、埼玉県所沢市の西武ドームで行われた。
本物の自動車を将棋の駒に見立てて行われた「リアル車将棋」の対局風景(8日、西武ドーム)
この日対局したのは、羽生善治王座(名人・王位・棋聖、44)と、昨年秋の王座戦五番勝負で羽生王座をあと一歩まで追い詰めた気鋭の若手、豊島将之七段(24)。二人はグラウンド内のテントから、戦国時代の武将のように駒=車を指揮。二人の指示に従って、トヨタ自動車のテストドライバーや早稲田大学自動車部員が車を運転した。将棋駒の産地、山形県天童市で毎年行われる、人間を駒に見立てた「人間将棋」のクルマ版といえる試みだ。
豊島七段(前列中央)チーム。トヨタのテストドライバーたちが車を運転した
“地上最大の対局”とうたうこのイベントを主催したのは、対局の模様を動画サイト「ニコニコ生放送」で中継したドワンゴと、自動車などを提供したトヨタ自動車。この日、西武ドームを訪れ本局を観戦した、広告宣伝機能を担うトヨタ子会社のトヨタマーケティングジャパン、河本二郎副社長は「想像はしていたけど実際見ると大きいね」と笑顔を見せた。
河本副社長は、「若者のクルマ離れが言われるだけに、将棋ファンの若い人が喜んでくれたら。(クルマと将棋、双方の魅力を知ってもらい)相乗効果があればいい」と企画の狙いを語る。「トヨタはちょっとお堅いイメージがあるが、面白いことやってるなと思ってもらえれば」
昼食休憩中の羽生王座(前列中央)チーム。車は早稲田大学自動車部員が操作した
本局を中継した「ニコ生」の番組には、多くのプロ棋士のほかレーシングドライバーなど自動車関連のゲストも大勢登場。将棋の解説に加えて、登場するトヨタ車やモータースポーツの紹介などクルマの話題も頻繁に取り上げられた。この日の中継は延べ40万人以上が視聴。将棋普及とともに、トヨタ車の認知度向上に一役買ったことだろう。異色のコラボレーションとなった今回の企画。将棋やクルマの新たな可能性を感じさせる「いい意味でも悪い意味でも“アホ”な」(トヨタマーケティングジャパンの河本副社長)、壮大なお祭りだった。
なお、この日の対局は羽生王座が勝利。第一人者の貫禄を示した。終局後、羽生王座は「(事前には)どういうことになるかまったく想像できなかったが、非常に楽しい時間を過ごすことができました」と笑顔を見せた。豊島七段は「色々な試みで将棋界が盛り上がっていけばいい」と話した。