【北京=阿部哲也】中国の独占禁止法当局は10日、米半導体大手のクアルコムに60億8800万元(約1150億円)の罰金支払いを命じたことを明らかにした。同社が中国で高いシェアを持つスマートフォン(スマホ)向けの通信技術を巡り、端末メーカーに不当に高い使用料を強いるなどの違反行為があったと認めた。外資大手の大型摘発が続く中国の独禁法違反では、過去最大の制裁金を科す。
価格に関する不正行為を取り締まる国家発展改革委員会(発改委)が摘発した。昨年には日本の自動車部品メーカー12社の価格カルテル(10社に制裁金)のほか、独フォルクスワーゲン(VW)など海外自動車大手の違反行為にも多額の罰金を科した。今回は1社でこれらを上回る大型摘発で、外資も含め「企業の不正は厳しく取り締まる」という当局の強い姿勢を示した格好だ。
クアルコムで問題となったのは「優越的地位の乱用」と呼ばれる不正行為だ。同社はスマホ向け半導体で世界シェア5割を占める。「最大手」という立場を悪用し、顧客である中国の端末メーカーに「常に自社が有利になるような取引条件を課していた」(発改委)と指摘する。
具体的には不当に高い特許使用料を徴収していたほか、端末メーカーに複数の自社技術の利用を押しつけるといった不正行為を繰り返していたという。中興通訊(ZTE)など中国メーカーから苦情が相次いだため「時間をかけて調査を続けてきた」(発改委)としている。
習近平指導部は世界第2位の経済大国の「威信」をかけて独禁法の運用強化に動いており、とりわけ外資の監視を強めている。「見せしめ効果」を狙い、経済犯罪に対する厳罰化も進んでおり、今回の巨額制裁につながった。クアルコムは発改委への制裁金支払いと業務改善で合意したと発表した。
最近相次ぐ大型摘発は大手外資が大半で、進出企業の間では不満も高まっている。米国や欧州連合(EU)の在中国商工会議所は「外資たたき」ともとられる一連の摘発に対し「公平性に欠ける」との声明を発表している。今後は対中事業の拡大に二の足を踏む外資企業が増える恐れもある。