東南アジア最大の新車市場となったインドネシアで、自動車大手が生産体制の再構築を急いでいる。米ゼネラル・モーターズ(GM)は2年前に再稼働したばかりの自社工場を閉じ、生産を上海汽車集団との合弁工場に一本化する。三菱自動車は27日、新工場で売れ筋の小型ミニバンを生産すると発表した。各社とも成長性が高い市場として注目しているのは間違いないが、メーカーによって戦略は大きく異なる。
GMのシボレー現地生産は再参入から2年で再撤退(ジャカルタ郊外西ジャワ州の工場)
■日系が存在感
「販売台数も伸びず、規模のメリットを出せなかった」。GMの報道担当者はインドネシアで「シボレー」ブランドの乗用車生産を打ち切り、GM単独での現地生産を断念することについて、こう理由を語った。
GMは1993年に現地企業と共同出資会社を設け、生産も手掛けたが、2005年に経営環境の悪化から生産を停止。富裕層に人気のSUV(多目的スポーツ車)を中心に輸入販売してきた。それを1億5千万ドル(約180億円)を投じ、13年に生産を再開した。それ以前の10年で新車市場が3倍に広がり、年120万台に到達した市場を攻略するのが狙いだ。
そのために現地生産に踏み切った車が小型ミニバンの「スピン」。トヨタ自動車の「アバンザ」など人気車と同等の150万円程度の安値を実現した戦略車だ。初年度はGMの年間販売を3倍弱に引き上げたが、その後は伸び悩む。14年のGMの販売実績は1万台で市場シェアは0.8%にとどまった。生産・販売増によるコスト効率の向上が行き詰まった。
インドネシアでは中型機種も入れるとミニバンが市場の4割を占める。家族や使用人ら多くで乗る傾向があるため、3列シートで7人乗れるミニバンの人気が高い。中間層の拡大に伴い小型ミニバンの需要が高まり、12年初まではトヨタとダイハツ工業の寡占状態だった新車市場に、メーカー各社が流れ込み始めた。
12年にスズキ「エルティガ」や日産自動車「エバリア」などの新型車が続々登場。14年1月にはホンダが現地向けに開発した「モビリオ」で小型ミニバン市場に参入し、14年には8万台近く売れた。GMの競争環境は厳しさを増していた。
一方、三菱自動車は商用トラックで長い実績を持つが、乗用車では出遅れていた。「コルト」はインドネシアでトラックの代名詞にさえなり、商用車の販売増で12年にはトヨタとダイハツに次ぐ市場シェア3位だった。だが、乗用車では12年から現地組み立てに着手したSUV「アウトランダー」が目立つ程度。本格的な現地生産には至っていなかった。そこで三菱自は攻めに出る。
約600億円を投じ、インドネシアに2つ目となる新工場を建設すると正式発表した。17年4月に稼働する。年産能力は16万台で、20年代半ばに24万台まで拡張する計画。目玉となるのは小型ミニバンの新開発車だ。ほかにも高所得層に人気のSUV「パジェロスポーツ」も生産。小型ミニバンはフィリピンやタイなど周辺国にも輸出する。世界で自動車生産の選択と集中を進めている三菱自にとって、最大規模の投資案件になる。
インドネシアの15年の新車市場は「前年比で横ばい程度」(インドネシア自動車製造業者協会のスディルマン会長)と見られている。インドネシアの人口は2億5千万人。東南アジア最多で、世界でも4位につける。一方、自動車保有率は国民20人あたり1台にとどまっているうえ、1人当たり国内総生産(GDP)が3千ドルを超えたことを考えれば、今後の伸びは大きいとみられる。
■さらに低価格で
小型ミニバンの生産から身を引くGMも、さらに低価格帯の市場を攻めることで巻き返しを狙う。同社は2日、上海汽車との中国合弁会社を通じ、インドネシアに年産15万台の工場を17年に稼働させる計画を発表した。「五菱(ウーリン)」ブランドの車を「5千ドルカー」(約60万円)として売り出す計画だ。
インドネシアは市場の潜在性が高いものの、新興国特有の課題に対処できるかが今後の課題だ。素材産業が未成熟で輸入依存が高く、13年に比べれば約3割も下落している通貨ルピア安の打撃も大きい。部品の現地調達率などを巡る急な政策変更も警戒されている。それでも成長市場を前に自動車各社は生産体制の整備を進め、攻勢に出る機会を伺っている。
ジャカルタ=渡辺禎央、東京=渡辺直樹