上場企業が株主に自社製品や割引券を贈る「株主優待制度」で、金券を使う例が増えている。2014年度に優待を始めた企業では金券の割合が5割を超えた。金券は使い勝手が良く、優待利回りの換算が明確なため個人投資家の間で人気が高い。企業には実利をアピールして、自社株を長期安定的に保有してくれる個人株主を積極的に取り込みたい狙いがありそうだ。
金券による優待利回りは高めだ
優待利回り(%) |
内容 |
フランスベッドホールディングス |
5.5 |
メディカルショップなどの利用券(1万円分) |
楽天 |
4.2 |
楽天市場クーポンなど(計8300円分) |
パルコ |
3.9 |
「大丸」「松坂屋」で使える買い物券(4000円分) |
日産車体 |
1.9 |
オリジナルクオカード(3000円分) |
(注)内容は保有株数によって異なる。最も優待利回りが高くなるケース
野村インベスター・リレーションズ(IR)によると、14年度(14年4月~15年2月)に株主優待を新設した企業は92社。このうち52%にあたる48社が金券による優待で、優待制度を持つ企業全体に占める割合も3割強に上昇した。
これまでの株主優待は食品や小売りなどの企業が自社製品を贈ったり、店舗利用時の割引券を配ったりする例が主流だった。消費者になじみの薄い素材メーカーなどでは優待制度を使いにくかったが、金券を使うことで導入例が増えている。
日産車体は今月、保有株数に応じてクオカード3000~5000円分を贈る株主優待制度の導入を発表した。共英製鋼も新たに優待を始め、クオカードを1000~2000円分贈る。
金券による株主優待は企業、個人双方にメリットがある。企業側には株価が15年ぶりの水準を回復し、少額投資非課税制度(NISA)も始まったのを機に個人株主数を増やし株主構成を多様化したい思惑がある。海外要因で頻繁に売り買いする外国人投資家に比べ、個人株主は安定的に保有する傾向がある。
大和インベスター・リレーションズ(IR)によると、13年9月までの3年間に優待を導入した企業の7割超で株主数が増えた。防災事業を手がける帝国繊維では個人株主数の減少に対応して、14年8月にクオカードなどを使った株主優待を導入。14年末の個人株主数が約5割増えたという。
個人の間でも換金できて食料品などと違い消費期限がない金券の人気は高い。金額に換算して利回りを計る優待利回りの算出も容易だ。優待金額を明示している680社を対象に優待利回りの加重平均を算出したところ約1%と東証1部の配当利回り(1.6%)に迫る水準だった。楽天やパルコなど4%程度に達するものもある。
配当も優待も同じ株主配分の一種だが、個人投資家にとっては優待には税金面のメリットもある。配当所得には20%課税されるが、優待は雑所得の区分になり、最大で年間20万円分が非課税となる。