過労死や過労自殺を生じさせた企業が負った賠償責任は、役員一人ひとりが負うべきだ――。4年前に自ら命を絶った銀行員の遺族が、株主の立場で当時の役員11人を相手取り、2億6千万円余りを銀行に賠償するよう求める株主代表訴訟を起こす。訴訟を通じ、過労死防止の責任は経営陣にあることを明らかにし、意識改革を促したいという。
原告は熊本県内の地銀最大手・肥後銀行の男性行員(当時40)の妻(46)。代理人の松丸正弁護士(大阪弁護士会)によると、過労死・過労自殺問題をめぐる株主代表訴訟は全国で初めて。
男性は為替・手形システムを改める作業の責任者を務めていた2012年10月、本店から飛び降りて亡くなった。熊本労働基準監督署は死の直前4カ月間の残業時間は月113~207時間と推計。13年3月、働き過ぎで重いうつ病になったのが自殺の原因として、労災と認定した。
妻ら遺族5人は同年6月、肥後銀行を相手取り、損害賠償を求めて提訴。熊本地裁は14年10月、従業員の健康に注意する義務を怠り、漫然と過重な長時間労働をさせたとして、慰謝料など計1億2886万円の支払いを命じた。銀行側は控訴せずに判決が確定し、賠償金を支払った。
妻は男性が保有していた株式を相続しており、今回は株主の立場で株主代表訴訟を起こす。訴訟では、役員が過労死を防ぐ有効な体制作りを怠ったため、賠償金を支出することになり、銀行に「損害」を与えたとしている。さらに過労自殺で銀行の信用も傷つき、少なくとも1億円の損害が生じたなどと主張している。
訴状では、男性の実労働時間が…