九電の株主総会に臨む株主の神谷杖治さん=28日午前9時2分、福岡市中央区、上田幸一撮影
川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働後、初めて開かれた28日の九州電力の株主総会。熊本地震の記憶も鮮明な中、被災した株主も出席して脱原発を求めたが、いずれも否決された。出席した株主は、災害と原発利用をめぐり、様々な思いを語った。
熊本市東区で被災し、福岡市で避難生活を送る主婦の永尾佳代さん(62)は、通行止めや渋滞に阻まれて避難に長時間かかった経験から、「災害時の避難はパニックになる」と九電の株主総会で訴えた。
4月16日未明の本震後、1歳と4歳の孫2人を乗せて車で福岡市に向かったが、主要国道は通行止めで、他の道も渋滞した。福岡市にたどりつくまで約8時間かかったという。永尾さんは「川内原発を今すぐに止めてほしい」と迫ったが、瓜生道明社長は「安全性について何ら問題ないことを確認し、運転を継続させていただいている」との見解を繰り返した。
元熊本大助教の神谷杖治さん(73)は、熊本県合志市の自宅が半壊した。壁が崩れ、倒れた塀が道路をふさいだ。「震災になったら計画通りの避難などできるわけがない」と痛感した。「もういっぺん、ちゃんと言わにゃいかんと思った」
物理学を研究する中で、放射性物質の恐ろしさに気づき、原発のあり方に疑問を持った。「発言するのが学者としての社会的責任」と、1970年代から反原発運動に加わった。意見を直接ぶつけようと、株主総会に通い続けて30年経つ。
この日は、途中で質疑を打ち切ろうとした瓜生社長に、脱原発派の株主から怒号が飛ぶ場面もあった。神谷さんは「九電は質問に答えようとしなかった。川内原発が再稼働して、安心した部分もあるのだろう。おごりを感じる」と話した。(奥村智司)