【ドバイ=久門武史】イランの最高指導者ハメネイ師は9日、同国の核開発を巡る米欧など6カ国との交渉について「米国が核協議で欺かなければ、ほかの問題でも話し合えるかもしれない」と述べ、米国との対話拡大に含みをもたせた。6月末までの最終合意を目指す核協議の進展の具合によっては、核問題を超えて米国との関係改善を進める用意があることを示唆したとも受け取れる。
核問題の解決に向けた枠組み合意が4月初めに成立してから、ハメネイ師が公にこの問題について言及したのは初めて。
イランでは最高指導者が国政全般の決定権を握る。1979年のイラン革命を機に同国と米国は国交を断絶したまま。核問題でハメネイ師は米国を敵視する発言を繰り返しており、対話拡大の可能性に踏み込んだ発言は最近では異例だ。イラン側に歩み寄りの用意があると示すことで、6カ国を主導する米国に一段の譲歩を促す狙いとの見方もある。
枠組み合意ではイランが核開発の大幅な制限を受け入れるかわりに、米欧が対イラン制裁を取り下げる。交渉が進展するかどうかについてハメネイ師は「すべては細部にかかっている」と述べた。「支持も反対もしない」とも表明した。最終合意は「保証されていない」と言明し、交渉が成功するかどうかは米国など6カ国側によるところが大きいとの態度をみせた。
今後もイランの交渉チームを支持すると指摘したが、「米国との交渉に楽観的だったことはない」とクギを刺した。
ハメネイ師は枠組み合意後のほぼ1週間、沈黙を守った。米国への譲歩を嫌う国内の保守強硬派の動向を注視、世論を見極めていた可能性がある。その間、交渉に懐疑的とされた保守強硬派から合意に一定の評価を与える発言が相次いでいた。
革命防衛隊のジャファリ司令官は7日に「レッドライン(譲れない一線)を越えることなく、国益を維持できた」と述べた。保守強硬派が主導するイラン国会のアブトラビ副議長も5日に「欧米が例外的にイランの権利を認めたことは素晴らしい勝利だ」と述べた。
ハメネイ師は、最終合意でイランが核開発を制限する見返りとなる制裁の取り消しについて「合意の日にすべて解除されるべきだ」と述べた。
イランのロウハニ大統領は9日の演説で「(最終合意の)履行初日にすべての経済制裁が解除されないなら、合意に署名しない」と述べた。ハメネイ師はこれよりハードルを上げた格好だ。
イランと米国の敵対関係は2002年にイランが秘密裏に進めていた核開発が暴露される前から続いてきた。イラン革命の混乱のなかで、学生グループがテヘランの米大使館を占拠し多数の大使館員を人質に取る事件が起きた。米国はイランの在米資産を凍結した後、同国との国交を断絶した。イランは在米資産の規模が相当な大きさであると主張し、凍結解除を米国に求めてきた。
米国は84年にイランをテロ支援国家に指定して制裁を科した。このためイランは石油開発や貿易が滞り、老朽化した危険な航空機の運航を余儀なくされている。13年にはイランと6カ国側が暫定合意に至り、制裁が一部緩和された。米ボーイングは14年、革命後で初めて航空機部品をイランに輸出した。