【ニューデリー=黒沼勇史】インドのモディ首相は9日、フランス、ドイツ、カナダの3カ国歴訪に出発した。首相は今回の外遊の重要テーマを経済と定め、シーメンスなど各国の有力企業幹部にインドへの投資拡大や進出を訴える。製造業の振興は、貧富の格差縮小に向け雇用を増やしたいモディ政権の主要政策の一つで、外資の直接投資をさらに促す狙いだ。
インド政府の公表資料によると、歴訪は1週間にわたる。2014年5月の首相就任後、欧州を初めて公式訪問する。
モディ政権の経済政策の旗印は「メーク・イン・インディア(インドでつくろう)」。人口12億人のうち7割が農村に住むが、国内総生産(GDP)に占める農業の割合は2割にとどまる。農村に製造業を定着させ、現在労働者の2割にとどまる製造業の枠を広げて貧富の格差を縮小する狙いだ。今回の歴訪でも産業界との会合や工場訪問が日程の多くを占める。
フランスでは10日、オランド大統領との会談を前に、インフラ関連と防衛技術関連という2業界の会合にそれぞれ出席する。有力企業の幹部らと会談する。仏南部トゥールーズでは欧州の航空・防衛大手エアバスの工場や国立宇宙研究センターも訪問する予定だ。
ドイツでは12日にハノーバーでの産業見本市にメルケル独首相と一緒に参加。ベルリンでは重電大手シーメンスの技術訓練校や鉄道を視察する。
兵器購入も大きな目的の一つだが、これもインドの製造業に対する技術移転につなげる構え。仏ダッソー・アビアシオン社から戦闘機「ラファール」126機を購入するための交渉を進める。
ラファール18機をダッソーがインドに納入し、残りの108機は技術移転を受けるインド政府系企業が生産する案も浮上している。インド側に十分な技術があるかどうか不明で、部品を輸入したうえでの組み立てや、補修部品の製造などにとどまる可能性もある。
インドの直接投資の受け入れ額は14年5月のモディ首相の就任前後から回復基調。14年度は15年1月までの10カ月分で377億ドルと、すでに前年度の全体を上回る水準に達している。
インドの製造業に関しては防衛など一部を除き、外資の出資規制が撤廃済みだ。だが、企業進出や工場建設に関わる行政手続きはなお遅い。
世界銀行の「ビジネス環境ランキング」でも189カ国・地域のなかで134位にとどまる。
外資製造業の投資を促すうえで欠かせないのは土地収用法の改正だ。現行法では、企業が工場の建設用地を取得する際、地権者の農民らに支払う対価や補償費用が比較的高い水準にある。モディ政権はこれを引き下げるための改革案を用意しようとしている。