山口香さん
女性のスポーツ指導者がなかなか増えない。最近の五輪では選手数もメダル獲得数も男女はほぼ拮抗(きっこう)。だが、選手団に監督やコーチとして参加した女性の割合は2012年ロンドン大会で12%、昨年のリオデジャネイロ大会でも16%にとどまっている。
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日本スポーツ振興センター(JSC)によると、昨年、各競技団体に「将来的に女性コーチになり得る人材はいるか」と尋ねたところ、五輪競技では75%、パラリンピック競技も38%が「いる」と回答した。しかし、女性指導者育成に向けた取り組みをしていると答えた競技団体は、五輪、パラリンピックともに22%だった。
一方、日本オリンピック委員会(JOC)の女性専門部会がロンドン五輪の期間中に行った調査では、女性選手の8割が、強化スタッフに女性が増えることは「有益」と回答した。また、国際オリンピック委員会(IOC)は競技団体などすべてのスポーツ組織に対し、20年までに女性役員の割合を40%以上にまで増やすことを勧告している。
こうした現状を受け、JSCは16年度から女性選手・指導者を育成・支援するプロジェクトに取り組む。同プロジェクトのマネジャー、山下修平研究員は「五輪に出るなど卓越した経験をした人が女性だという理由で競技から離れていくのはもったいない」と言う。
JSCは、五輪出場経験のある30~40代の女性指導者10人を対象に、重点的に育成するプログラムも始めた。共栄大(埼玉県春日部市)で女子バスケットボール部を指導する元ジャパンエナジー(現JX―ENEOS)のガード、楠田香穂里さん(42)はその一人。04年アテネ五輪を最後に引退した後、長男を出産し、10年に監督に就いた。代表のジュニア世代の強化に関わることを目標に掲げ、「指導者として恩返ししたい」と話す。
■慣習を疑ってみるべきでは
女性指導者をめぐる課題について、JOC女性専門部会長の山口香・筑波大准教授に聞いた。
――サッカーの高倉麻子さん、バレーボールの中田久美さん、卓球の馬場美香さん。女性の日本代表監督が昨年相次いで誕生しました。
「引き受けた覚悟に敬意を表したい。引退後に指導者として着実にキャリアを積んできた女性も多くなり、もう人材がいないとは言わせない。選ぶ決断だけです。後に続く女性も尻込みせずに挑んでほしい」
――女性指導者が増えない理由をどう考えますか。
「男性指導者にしか教わったことがない女性選手も多く、ロールモデルが少ないことは大きな一因でしょう。結婚や出産といったライフイベントもあります。男性指導者がこれまで合宿などに専念できたのは家事や育児を女性に任せてきたから。女性指導者に活躍してもらうにはサポート態勢の構築も不可欠です」
――男性が有利な状況を変えられますか。
「競技をする場合は男性の方が力や速さで優れているかもしれないけど、指導者の資質とは関係ないです。例えば、ラグビー日本代表前ヘッドコーチのエディ・ジョーンズさんや競泳の平井伯昌さんはトップ選手だったわけではなく、手本を見せて指導するわけでもない。必要なのは指導のノウハウであり、そこに男女の違いはありません」
――女性指導者が活躍するために、スポーツ界はどう変わるべきですか。
「スポーツ界は男性の方が優秀だという意識が強く、監督人事も『男性ありき』に陥っていることも多いです。でも、これまでの慣習を疑ってみるべきです。スポーツ界には女性の視点が欠けていました。女性の起用は多様性を生み、そこから新たな価値観が生まれるはずです」(伊木緑)