世界的な金融緩和であふれた投資マネーの流れに変化が起きている。日米欧で債券と株が売られ、長期金利は急上昇し、株価は弱含んでいる。欧州ではデフレ懸念が和らぎ、金融緩和への過度な期待が後退している。対照的に市場が前提としてきた米景気の回復シナリオには陰りが見え始めた。年明け以降に株と債券に向かったマネーが一時的に逃避したとの見方が多いが、市場の変調には警戒感もくすぶる。
■独金利が急上昇
連休が明けた7日の東京市場で日経平均株価は大幅に反落した。終値は連休前より239円(1.23%)安い1万9291円だった。4月23日の年初来高値からの下落幅は900円に迫る。一方、国債は売られて長期金利は2カ月ぶりに0.4%台に乗せ、金利上昇と株安が同時に進んだ。
世界的に見ると、この半月で最も動きが大きいのが欧州国債だ。起点となったドイツでは4月下旬に0.1%台だった10年物国債が7日に0.7%台に急上昇した。フランス国債も0.4%から1.0%強に上昇、スペインやイタリアなど南欧の金利も跳ね上がった。
背景には金融緩和への期待の変化がある。ユーロ圏の4月の消費者物価指数は前年比横ばいに回復した。昨年夏から物価を押し下げてきた原油価格も米国でシェールオイルの減産観測が出てきたことから今年の安値から5割上がるなど底入れが明確だ。「経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)からすれば金利は低すぎた」(UBSのマイク・シューマッハ氏)との見方が広がり、急ピッチな調整が起きている。
余波は日米にも広がっている。米国の長期金利は2.2%台後半と今年最高の水準を付け、日本の金利も上昇した。「年明け以降、欧州投資家が日米の国債に資金を振り向けていた反動が出ている」(国債トレーダー)。日米の金融政策は欧州と局面が異なるが、金利差に着目した取引も多いためすぐに連鎖する。
「長期金利は急速に動く可能性がある」
「米国株はかなり高い水準だ」
イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長は6日、異例の警告を発した。これまでの株高は金融緩和が支えた面も大きい。金利の水準が切り上がれば影響は避けられない。米国株市場では高値警戒感が広がり、7日の東京市場にも連鎖した。
米景気の減速に対する懸念も投資家心理を冷やしている。1~3月期の国内総生産(GDP)は低迷し、今週発表された雇用や貿易収支の統計も鈍さが目立つ。米景気の一人勝ちの構図には変化の兆しが出ている。
■一部が原油へ
長期金利の急上昇と並び「株高の前提だった複数の要因が逆方向に傾き、リスクを落とす動きにつながっている」(大和証券の壁谷洋和氏)。
株と債券から逃避したマネーは一時的に現金化されたり短期金融市場で運用されたりするとみられる。一部は原油などの商品に再投資される。
日欧は大量の国債を買い続けており、いずれ長期金利の上昇は収まるとの見方が市場では多い。米国が年内に利上げに動くとの観測は変わらず、円安・株高基調は変わりないとの声が優勢だ。ただ「緩和相場が長期化してきた分、調整が深く長引いてしまうリスクに留意すべきだ」(BNPパリバ証券の中空麻奈氏)との指摘もある。