ヤマダ電機が7日、ソフトバンクと資本業務提携すると発表した。ソフトバンクがヤマダ株5%を引き受ける。提携話は2カ月ほどで合意したという。スマートハウス事業などで協力する計画だが、その「早業」の背景には何があるのか。市場には、ヤマダ株を買い増す投資ファンドの動きをにらんだ安定株主確保策との見方が出ている。
ソフトバンクにとってヤマダ電機の営業力は魅力だ(ヤマダ電機の携帯売り場)
「我々はソフトバンク創業時からのお付き合いだ。その延長線上でトップ同士が判断した」。同日都内で開いた2015年3月期のヤマダの決算記者会見で岡本潤取締役はこう説明した。ヤマダの山田昇氏、ソフトバンクの孫正義氏はともに創業社長。「(提携は)3月ごろに具体化し、スピード決定した」という。
一方、口をつぐんだのはヤマダの株式の13%強(1月時点)を持つ投資ファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネージメントとの関係についてだ。「個別の株主についてはコメントできない」
エフィッシモは旧村上ファンド出身者が設立したファンドで、昨年10月に7%強を握りヤマダの大株主になったことが明らかになった。その後も買い増し、現在は筆頭株主とみられる。
同ファンドはヤマダ株取得を「純投資」としており、これまでのところ経営面の提案はしていないもようだ。ただ2月にクレディセゾン系のセゾン情報システムズにTOB(株式公開買い付け)を表明し、会社側と対立するなど「物言う株主」でもある。
ヤマダの業績は消費回復の鈍さなどから伸び悩み傾向だ。インターネット通販の普及もあり、巨大な店舗網を生かし切れていない面もある。経営効率化は自他ともに認める課題で、エフィッシモは気になる存在だ。
山田社長は買い増しに対抗するかのように、2月下旬までに個人と資産管理会社とを合わせてヤマダ株の保有比率を9%超に引き上げた。ソフトバンクの保有分と合わせればエフィッシモと拮抗する水準になる。ドイツ証券の風早隆弘氏は「市場はエフィッシモに対する防衛策と判断するだろう」と指摘する。
では資本提携を一気にまとめた山田社長と孫社長はどんな関係なのか。
ソフトバンクがボーダフォン日本法人の買収で携帯事業に参入した直後の07年ごろ、孫社長はこう話していた。「新製品など何でも事前にヤマダさんに相談している」
当時NTTドコモなどに比べ携帯販売店が少なく、ソフトバンクを飛躍させた米アップルのスマートフォン(スマホ)「iPhone」もまだ取り扱っていなかった。ソフトバンクは「顧客が何を考えているか教えてもらう」(同社幹部)など、ヤマダ抜きに事業戦略を描けない状況だった。山田氏は今回、このときの「貸し」を返してもらった形になる。
もっともソフトバンクも借りを返すだけのために約227億円も投じるわけではない。ヒト型ロボット「ペッパー」、光回線、電力小売りなど扱う製品・サービスが増えていくなか、全国約1千の直営店を持つヤマダの営業網は魅力だ。
ソフトバンクと提携しても、ヤマダの店頭で他社の携帯の取り扱いが減るわけではない。だが、ある通信大手は「今後の状況を注視したい」と話す。多様な品ぞろえが売り物の家電量販店にとってソフトバンクの「色」が着きすぎるのは得策でない。今後は付き合い方が問われることになる。
(大本幸宏、小泉裕之、山本紗世)