中国の新車販売市場で値引き合戦が激しさを増している。米ゼネラル・モーターズ(GM)は12日、主力車種の定価を最大で約100万円引き下げると発表した。4月の販売台数が実質2年7カ月ぶりのマイナスとなり中国市場の成長に陰りがみえるなか、欧州や韓国、日本の大手メーカーも1~2割の値引きに動く。世界最大市場は消耗戦の様相となり始めた。
上海GMは異例の大幅値下げに踏み切る(上海市内の販売ディーラー)
GMと上海汽車集団の合弁会社「上海GM」は主力11車種の定価を下げる。中国で販売する「ビューイック」「シボレー」「キャデラック」の3ブランド全てが対象で、値下げ幅は1万元(19万5000円)以上になる。3万元前後を引き下げる車種が多く、値下げ幅は平均で1割前後。他社の競合モデルより値ごろ感を出して販売を促進するのが狙いだ。
売れ筋の中型多目的スポーツ車(SUV)「シボレー・キャプティバ」の一部モデルでは、26万3800元だった車両価格の2割に相当する5万3900元(105万円)を引き下げる。価格の引き下げで販売をてこ入れし、中国でシェア首位の独フォルクスワーゲン(VW)を追い上げる。
中国の4月の新車販売台数は前年同月に比べ0.5%減の199万4500台だった。景気減速を受け、消費者の新車購入意欲が減退しているとの指摘は多い。それでも4月の上海モーターショーに出席したGMのメアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)は「(販売が減速しても)中国は最重要な市場」と攻勢に出る構えを見せていた。
自動車メーカーは販売店に奨励金を支給する形で販売促進を図るのが一般的。販売店は奨励金を原資に不人気車種などを値引きする。自動車メーカーが主力車種の定価を一斉に下げるのは異例だし、具体的な値引き幅を外部に公表するのも珍しい。GMは大々的に値下げを発表することで消費者に訴える広告宣伝効果も見込んでいるようだ。
中国で値引き合戦が激しくなってきたのは、新車販売の伸びが鈍りだした昨年夏ごろからだ。競うように生産能力を拡大してきたメーカー各社は、販売台数の低下を恐れるあまり、次々と値引きを打ち出した。しかし販売は回復せず、さらなる値引き競争を招くという悪循環に陥っている。
北京市の韓国・現代自動車販売店。「今がチャンスです。日欧米のSUVは、この価格で絶対買えませんよ」。主力SUV「ix35」は今なら4万3千元の優恵(値引き特典)があるため、25%引きの13万元前後で買えるという。VWも中型車「サギター」を2割引きで販売している。欧米や日本メーカーに比べ圧倒的にブランド力が弱い中国メーカーは、20万円程度の値引きは当たり前になっているようだ。
値引き競争とは一線を画したい日本の自動車メーカーも、こうした動きに巻き込まれている。日産自動車の上海の販売店ではSUV「キャッシュカイ」を1割引きで販売している。新車販売店に対する客足が全般に遠のきつつあり、競合他社の値引き攻勢には値引きで対抗せざるを得ない。
「いまの中国では、値引きをしないで車を売ろうと思うのは相当難しい状況だ」。ホンダの中国合弁トップの水野泰秀広汽ホンダ総経理も警戒する。右肩上がり成長が続いた世界最大の自動車市場はメーカー各社が販売価格の値下げや値引きで収益を削り合う厳しい競争の局面を迎えた。
(上海=小高航、北京=阿部哲也、広州=中村裕)