米政治家ベンジャミン・フランクリンは、人生で確かなものは死と税金だけだと言った。明らかに彼はインドに行ったことがない。どんな海外投資家でも知っているように、インドの税制は全く確かさを欠いている。ある企業が支払いを終えたと思った1分後、数十億にもおよぶ遡及課税を要求される。もしラッキーならば、耐えがたいほどに長い(そして間違いなく費用のかかる)裁判に時間を費やしたあとに、脅威は消えてなくなる。そうでなければ、全額支払って、そして二度とインドに投資しないと誓うことになる。
コルカタの税務署。米欧の投資グループは、遡及課税の可能性に言及した当局に対し、内容を明らかにするよう要求している=ロイター
インドは税金に関してとんでもなく混乱している。問題の多くは前政権からの遺物で、モディ政権はそれらを「相続問題」と呼ぶのを好む。それらをどう呼ぼうとも、その後遺症はモディ氏自身の実行力に対する評判を傷つけている。アルン・ジャイトリー財務相は、事を鎮めるどころか、時として火に油を注いでいる。同氏が非公式に、海外のファンドマネジャーに一括課税すれば同国の灌漑(かんがい)問題を解決できると語ったことは本当かもしれない。そのコメントと時を同じくして、海外のファンドは先を争ってインド脱出に向かった。ルピーは2013年後半以来の、見たことのない水準まで下落した。
■企業、遡及課税で幾度も打撃
懸念の領域は3つある。1つ目は、ファンドマネジャーが突然、いわゆる最低代替税(MAT)の支払いを要求されたことだ。MATは、国内企業による最低額の納税を確実にするため、1990年代中盤に導入された課徴金だ。MATはこれまで海外ファンドを対象としていなかった。ところが2012年に海外ファンドに対する課税の扉が開かれた。ジャイトリー氏は、それを止めさせるべきだったが、逆に税務当局の独立性にこだわった。実際、同氏は今年4月以降の徴収を除外したが、それでも60億ドル以上にのぼる遡及的徴収の可能性は残る。
遡及は一般的に大きな問題だ。企業はこれまで幾度も繰り返し遡及課税の要求で打撃を受けてきた。恐らく、税金を最低限に抑える巧みさをもった多国籍企業にいらだっている、熱心すぎる税務当局者たちは危険を冒している。税務当局の対応は場当たり的だ。英ボーダフォンを含むいくつかのケースが裁判所で決着するやいなや、当局はスコットランドの石油開発会社ケアン・エナジーに対して、以前に起きたインド部門の組織再編に関する16億ドルを遡及して支払うよう召喚状を送った。