高く噴き上がる真っ黒な噴煙と流れ出す火砕流――。29日午前に発生した口永良部島(鹿児島県屋久島町)の新岳の噴火。同島には約140人の住民が暮らしており、政府や地元の役所は被害の確認や避難の準備に追われた。火山活動はしばらくの間続く可能性が高く、専門家は「観測体制を強め、警戒する必要がある」としている。
噴煙を上げる口永良部島の画像(気象庁提供)
「噴火」「屋久島町 全島避難指示」。鹿児島県災害対策本部では職員がホワイトボードに次々と入ってくる口永良部島の情報を書き込んだ。
屋久島町役場によると、種子島に停泊していた町営の「フェリー太陽」(定員100人)が屋久島を経由して、口永良部島に向かった。午後1時半ごろに同島の本村港に到着し、住民を屋久島に避難させる予定。鹿児島県警屋久島署の担当者は「避難誘導のため、フェリーや漁船を使って署員6~7人を派遣している。ヘリコプターでさらに署員を派遣できないか調整している」と話した。
口永良部島は屋久島の北西約12キロに位置する、約35平方キロメートルの島。居住地域は火口の西側約3キロにある本村港の周辺が中心。県によると、島には約140人が住んでいる。全域が屋久島国立公園に指定され、温泉や釣りを目当てに観光客も訪れる。
本村地区で民宿を営む渡辺森保さん(69)は「『ドカーン』という大きな爆発音がし、窓の外を見ると新岳から黒煙が上がっていた」と振り返る。煙は20分ほどで白く変わったという。「小さな噴火はよくあるが、ここまでは初めて」と戸惑いを隠せない様子だった。
近くで別の民宿を経営する女性(64)は、地元の消防団の車で最寄りの避難小屋に避難。小屋には全島から避難者が続々と集まってきているといい、「2人の宿泊客も無事だと聞いているが……」と不安げに話した。
気象庁は29日午前10時7分、噴火警報を発令し、噴火警戒レベルを3(入山規制)から5(避難)に引き上げた。屋久島町の避難指示を受けて、約120人の住民が島内の避難所で待機している。
東京大地震研究所の中田節也教授(火山地質学)は「口永良部島では2000年ごろから地震回数の増加などの前兆現象が見られるようになり、近年、本格的な噴火への警戒が高まっていた」と指摘。「今後も噴火が続いたり、大きな噴火が起きたりする可能性があり、注意深く観測していくことが重要だ」と話した。
日本各地の火山では最近、警戒レベルの引き上げが相次いでいる。箱根山(神奈川県箱根町)では6日、噴火警戒レベルが2(火口周辺規制)に引き上げられ、観光客が多く訪れる大涌谷周辺への立ち入りが禁止された。宮城県と山形県にまたがる蔵王山でも4月、火山性地震が増加し、今後小規模な噴火が発生する可能性があるとして、気象庁が火口周辺警報を出した。