10月から個人への通知が始まった社会保障と税の共通番号(マイナンバー)で、小規模な自治体や中小企業が対応に追われている。住民や従業員の個人情報を守るためにセキュリティー対策は急務だが、システム改修などの費用負担が重くのしかかる。
マイナンバー制度で来年1月から交付が始まる個人番号カード(表)
マイナンバーの個人番号カード(裏)
「システム改修費を捻出するため、別の予算を削らなければならなかった」。人口約4千人の熊本県球磨村でマイナンバーを担当する職員は漏らす。
同村は2014年度から番号の管理システムの改修を実施。総務省がシステムと外部のインターネットを切り離すよう自治体に要請したため、対応費用は計約4300万円に膨らんだ。国の補助があり、村の支出は約1000万円になる見込みだが、約33億円の年度予算の村には少なくない出費だ。
自治体などでは情報管理の危うさが表面化する問題が相次いでいる。今年6月には日本年金機構で年金情報の流出が発覚。長野県上田市では庁内ネットワークがウイルスに感染した。
総務省の昨年4月時点の調査では、職員に情報セキュリティー研修をしている自治体は東京23区や政令指定都市では100%だったのに対し、人口5千人未満の町村は約43%にとどまった。
立命館大の上原哲太郎教授(情報セキュリティー)は「今後業務に応じて住所や所得、家族構成など複数の個人情報をマイナンバーに集約した場合、標的となるリスクが高まる。対策が遅れる自治体は攻撃者からくみしやすい相手とみられる」と警告する。
中小企業の対応の遅れも指摘される。東京都板橋区などが9月中旬に開いた「マイナンバー対策セミナー」には、中小企業の経営者ら約200人が参加した。
企業も源泉徴収などにマイナンバーを使うことになり、漏洩などのリスクに直面する。卸売業を営む男性(74)は「身の回りでもあまり話題にならず、取引先でも準備していない会社が多い」。講師の話を聞き、「情報管理の責任が増して大変だ」と感想を漏らした。
システム改修の負担は軽くはない。同区のある町工場は数百万円の情報管理ソフトの導入を持ちかけられている。担当の男性役員(65)は「うちの従業員は20人。そこまでの必要があるか疑問だ」と悩む。
制度について中小企業向けに講演する影島広泰弁護士(41)は「数十人の企業なら管理は紙で十分。無理にデータ化してパソコンに入力する必要はない」とアドバイスしている。