投資家は今年、石油価格について心配する理由がたくさんあった。ここへ来て、もう一つ理由ができた。米商品先物取引委員会(CFTC)のティモシー・マサド委員長が21日、米国石油市場で今年、35件の異様な「フラッシュ・クラッシュ(瞬時の急落)」が起きたことを明らかにしたのだ。
HFT取引が急速に拡大している(写真は銀行のトレーディングルーム)=ロイター
そう、読み間違いではない。CFTCの調査員らによると、30回以上にわたって、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油の価格があまりに劇的に乱高下したため、フラッシュ・クラッシュとして定義されたという。これは価格が1時間未満のうちに200ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)振れ、その後、少なくとも75bp戻すことを意味する。
■商品市場にまで広がる
定義が多少恣意的だったとしても、こうした振れは明らかに頻度が大幅に高まっている。しかも、石油市場だけの話ではない。今年、米国株のフラッシュ・クラッシュが一部の上場投資信託(ETF)の価格を一時的に急落させたとき、投資家は衝撃を受けた。ほぼちょうど1年前には似たような発作的な動きが米国債市場で勃発した。
だが、CFTCの調査は、問題がこうした目立つ出来事にとどまらないことを示している。フラッシュ・クラッシュは今、例えばトウモロコシなど、これまで退屈だったコモディティー(商品)部門にまで影響を及ぼしているのだ。
なぜか。銀行家に聞けば、規制の責任にしたがるだろう。2008年の危機の後に導入された改革のために、銀行は極めてリスクを嫌うようになり、投資家が売買したいときにいつでも買ったり売ったりする用意があるマーケットメーカー(値付け業者)としての役割を果たすのに消極的になった――というのが彼らの言い分だ。つまり、危機が起きると流動性が消滅し、価格の振れをもたらす。
だが、マサド氏はもう一つの原因を挙げる。高速取引(ハイ・フリークエンシー・トレーディング=HFT=高頻度取引)を手掛けるトレーダーが利用するようなアルゴリズムがそれだ。
これはパズルの重要な一片だ。過去数年間で、自動コンピュータープログラムの利用があまりに急速に拡大したため、CFTCによれば、今では金属およびエネルギーの先物取引全体の50%、国債先物取引の67%にこうしたプログラムが関与している。もし市場が映画「2001年宇宙の旅」に出てくる宇宙船のようだったとすれば、コンピュータープログラムは、宇宙船を制御する人工知能のHAL(ハル)だ。