日銀の原田泰審議委員は11日、宇都宮市で開いた金融経済懇談会後の記者会見で、物価は今後上昇に向かうとして「現在の段階では追加金融緩和は必要ない」との見方を示した。一方で、物価上昇のメカニズムが崩れた場合は政策の調整が必要と指摘し、その場合の追加緩和手段には「制約はない」と述べた。
原田委員は、物価上昇の足踏みは原油価格の下落が原因と指摘し、「原油価格下落の効果がはく落するとともに、いずれ物価が2%に近づいていくことを確認できる」として現段階で追加緩和は必要ないとの考えを示した。将来の追加緩和の手段について問われると「政策手段はいくらでもある」と述べ、日銀に残された追加緩和手段が限られているとの見方を否定した。
また「物価が上がり、かつ労働需給が逼迫すれば賃金も上昇する」として、現在の政策を続けることで物価が賃金を伴って上昇する安定的な経済状況を実現できるとの考えを示した。現在の賃金が伸び悩んでいるのは「労働需給の逼迫がまだ足りない」ためという。
原油価格の下落は国内経済に好影響を与えるとの見解を示す一方、「貯蓄率が上がっているため、原油安によって増えた実質所得が支出にまわっていない」とも指摘した。ただいずれ貯蓄率は頭打ちになるとして、将来的には支出の増大につながるとみている。
ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)など予想物価上昇率を示す指標の伸び悩みについては「日銀に来る前は予想物価が現実の物価に働きかける経路が大きいと思っていたが、実際の物価を見ると予想物価は足元の物価上昇率に影響を受けている」と述べ、問題視しない姿勢を示した。
午前の講演で足元の弱含みを指摘した生産や輸出は、10~12月期には回復の兆しがみられると予想した。〔日経QUICKニュース(NQN)〕