【パリ=竹内康雄】世界初の商用原子炉が稼働してから約60年を経て、原子力発電所から排出される「核のごみ」対策がやっと前進する。フィンランド政府は12日、世界で初めて核のごみを埋める最終処分場の建設を認可した。地下深くに10万年にわたって閉じ込める壮大な事業だが、原発を使う以上、各国とも避けて通れない課題だ。だがフィンランドに続く例はわずかで、多くの国は候補地の選定にすら至っていない。
フィンランド南西部のオルキルオトに、フィンランドの電力会社TVOなどが出資するポシバが建設する。近く着工し、2022年に操業を始める予定だ。建設費用は35億ユーロ(約4600億円)。オルキルオトでは原発2基が稼働中。処分場は既にある実験施設を拡張して建設する。
原子力発電はウランやプルトニウムを燃料に電気をつくる。発電後に残る廃棄物(核のごみ)は、放射能が強く人体に有害だ。計画ではこの核のごみを円筒型の金属製容器に封入した上で、地下約450メートルに閉じ込める。100年後に施設が満杯になった段階で完全に封鎖する。
現時点では解決の手段は、地下深くに埋める「地中処分」に限られる。地質学者の肩書を持つ職員らが、地質の構造や地下水の漏れなどの影響を詳細に調べる。放射能が生物にとって安全なレベルに下がるまで約10万年かかるためだ。
最終処分場の候補地で具体的な地名が出ているのはフィンランド、スウェーデン、フランスの3カ国だけだ。スウェーデンは30年以上に及ぶ議論を経て、09年に建設場所を中部フォルスマルクに決めた。フランスは東部ビュールで実験を進めている。
だが日本を含む原発保有国の大半は候補地の選定にも至っていない。地元住民の反発が強いためだ。英国やドイツは候補地を絞り込んだが、候補地選定のやり直しを余儀なくされている。米国は今年、最終処分を先送りし、当面は暫定的な施設で保管することを決めた。保管場所や処分場が定まらなければ核のごみがたまり続けるため、原発の運転を止めざるを得ない状況に追い込まれる。住民をどう説得するかが大きな課題となっている。
隣国ロシアに資源を依存するフィンランドは、エネルギー安全保障の観点から原発を推進してきた。初の原発稼働が1970年代後半。94年に自国で発生する核のごみは自国で処分するとの法律を制定。オルキルオト原発があるエウラヨキ市が01年に受け入れを表明した。住民は雇用や税収を生み出すとしておおむね好意的だ。最終処分場の設置を住民の6割が支持したという。地震がほぼなく、地盤が安定している利点はある。
電力会社TVOのトゥオヒマ広報部長は「我々の事業は『トラスト(信頼)ビジネス』だ」と話す。情報を隠さずに説明会などを頻繁に開く。TVOもポシバも本社をエウラヨキに置き、安全への覚悟を見せた上で税収面でも貢献することで地元を説得した。