長崎原爆に爆心地から12キロ以内で遭いながら、国が定める被爆地域外だったために被爆者と認められない「被爆体験者」161人が、長崎県と長崎市に被爆者健康手帳の交付を求めた訴訟の判決で、長崎地裁は22日、被曝(ひばく)線量が高いと推定された地区の10人への手帳交付を命じた。原告弁護団などによると、被爆者を救護した場合などを除き、指定地域外でも被爆者と認める判決は初めて。
被爆地域外にいた人の被爆者認定を巡っては、原爆投下後の放射性降下物を含む「黒い雨」を浴びた広島市などの住民が手帳交付を求めた訴訟も広島地裁に係属中。今回の判決が被爆地域拡大を巡る論議に影響を与える可能性もある。
この日の判決で松葉佐隆之裁判長は「原爆投下による年間放射線被曝線量が自然界の約10倍(25ミリシーベルト)を超える場合は健康被害の可能性がある」と判断した。東京電力福島第1原子力発電所事故後に国が年20ミリシーベルト超と推定した地域を計画的避難区域にした点も指摘。原告側が出した線量推計値を基に、10人は10倍を超すと認定した。
推計値が過剰である可能性も指摘しつつ「当時の生活は現在より放射性物質を体内に取り込む可能性が高く内部被曝が生じるような状況だった」と指摘。10人は被爆者援護法の「身体に原爆の放射能の影響を受けるような事情があった」との規定に該当するとした。
一方、原告側が「行政は内部被曝の健康影響を十分に検討していない」と主張した点について判決は「具体的な内部被曝の総量は明らかでなく、内部被曝のみで健康被害が生じたとまでは認められない」と退けた。
判決について弁護団は「該当規定の範囲を広げた点は評価するが、25ミリシーベルトでの線引きは根拠が不明確で遺憾」として、請求を認められなかった151人は控訴する方針。
厚生労働省は「判決の内容を精査しており、今後の対応は関係省庁ならびに長崎県や長崎市と協議したうえで決めることになる」とのコメントを出した。
先行する同種訴訟で、2012年の長崎地裁判決は原告側の請求を全て退け、原告側は福岡高裁に控訴。判決は3月28日に言い渡される。
▼長崎の被爆者と被爆体験者 国は旧長崎市を中心に爆心地から南北に約12キロ圏、東西に約7キロ圏を「被爆地域」と定めている。地域内で原爆に遭った人や2週間以内に2キロ圏内に立ち入るなどした人は「被爆者」として被爆者健康手帳が交付され、医療費の自己負担分は原則無料となる。爆心地の半径12キロ圏内で原爆に遭っても、被爆地域の外側にいた人は「被爆体験者」とされ、国は精神疾患とその合併症に限り医療費を支給している。
〔共同〕