主な競技のリオ五輪代表選考方法
4年に1度の五輪代表に、誰をどう選ぶか。競泳の一発選考は単純明快だが、金メダリストの北島康介選手(33)のリオデジャネイロ行きを阻むほど厳しいものだった。基準があっても紛糾したり、2020年東京五輪を見据えた選び方を採り入れたり。競技団体によって代表の選び方はまちまちだ。なんでこうも違うのか。
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特集:北島康介引退
04年アテネ、08年北京両五輪の男子平泳ぎで2冠に輝いた北島選手が、100メートルでリオ行きを逃した5日の競泳・日本選手権。決勝レースをテレビで見ていた元陸上選手で北京五輪銅メダリストの朝原宣治さん(43)が、ツイッターでつぶやいた。「熾烈(しれつ)な争いですね。残念です」。北島選手は決勝で2位になりながら、派遣標準記録(59秒63)に0秒30及ばなかった。朝原さんのつぶやきは、前日の準決勝では派遣標準記録を切った彼への同情が込められていた。
前年の世界選手権で優勝し内定を得た3人を除き、競泳の一発選考は過去の実績は考慮しない。条件は「日本選手権の決勝で、派遣標準記録を突破して2位以内」。派遣標準記録は日本水泳連盟が五輪の決勝(8人)進出ラインをにらんで独自に算出した。
日本水連には、「なぜ北島を行かせないのか」との抗議電話が寄せられたが、北島選手自身は8日、200メートルで5位に敗れた後、「五輪で終わるか、日本選手権で終わるか、覚悟を持ってやってきた」。潔く引退を表明した。
朝原さんに、ツイートに込めた思いを聞いた。「決勝はガチガチになってタイムが遅くなることがある。タイムと勝負は別だと思う」。そして、「陸上では成り立たないでしょうね。多くの選手が五輪に出場できなくなる」。
陸上のトラック・フィールド種目にも、日本陸連が定めた派遣設定記録はある。ただし、設定は「世界ランキング12位相当の記録」と、競泳に比べて低め。しかも6月の日本選手権までの約1年間で一度でも突破すればいい。有力選手の場合、故障などで日本選手権に出場できなくても、特例で救済される制度もある。
マラソン選考のわかりにくさは、五輪のたびにやり玉にあがる。代表選手数と選考会の数が合わないことなどに、「東京五輪に向け、何とかしなければ」(日本陸連幹部)というが、具体的な検討にまでは進んでいない。
リオ五輪の男子選考会を兼ねた2月の東京マラソンでは、当時19歳で青学大2年の下田裕太選手が10代の歴代日本最高タイムで日本人2位に入った。青学大の原晋監督(49)が「伸びしろがあり、東京五輪につながる」と、下田選手を選ぶよう主張して話題になった。
その声は届かなかったが、他競技の中には、リオ五輪代表選考に「東京枠」を明確に打ち出しているところもある。女子で3枠が有力なトライアスロンは、①総合力②レース展開③東京五輪へ向けた将来性の基準を明記。少なくとも1人は「東京五輪を狙える有望選手を選ぶ」。
新体操個人は20年まで活躍が見込める1997年以降生まれにターゲットを絞る。オーディションで選んだ早川さくら(19)、皆川夏穂(18)の両選手を、世界選手権などの国際大会に優先的に派遣してきた。リオ五輪の出場1枠はこの2人で争う。
北島選手に関する著書もあるスポーツジャーナリストの長田渚左さん(60)は、五輪代表がすべての人に応援してもらうためには公平に選ばれるのが大前提といい、「今一番調子のいい選手を選ぶべきで、20年東京五輪に向けて特別な思惑や力は入りすぎない方がいい。競泳の条件は厳しいけど、理不尽なほどの悔しさが生まれるのもスポーツ」。早大スポーツ科学学術院の友添秀則院長(59)は、競技団体と選手を医者と患者の関係になぞらえ、「大切なのは『インフォームド・コンセント』、つまり選手への十分な説明と合意形成だ。選考基準をつくる段階から選手の意見を採り入れる態勢を整える必要がある」と訴える。(清水寿之、増田創至)