セブン&アイ・ホールディングスの新経営体制
セブン&アイ・ホールディングスは19日の取締役会で、セブン&アイの新社長に井阪隆一セブン―イレブン・ジャパン社長(58)が就く新体制を決めた。一方、取締役を退く鈴木敏文会長(83)の処遇は持ち越しとなり、人事を巡る混乱は完全な収束には至っていない。
セブン&アイの取締役会は同日午後、都内で開かれた。所要時間は45分で、井阪氏の新社長就任を含む新体制は15人の取締役の全会一致で決まったという。井阪氏は「鈴木会長は変化に対応する行動力とお客様の利便性を追求する姿勢を教えてこられた。これらを大切にして、グループが成長を果たせるよう精進する」とのコメントを出した。
新体制では、新設の副社長に後藤克弘・取締役常務執行役員(62)が就任。井阪氏の後任のセブン―イレブン社長には、古屋一樹副社長(66)が昇格する。セブン&アイの村田紀敏社長(72)と鈴木氏の2人は退任するとしたが、その後の役職については未定で、株主総会を開く5月26日までに決める方針という。
今回、新体制に移行するきっかけとなったのが、今月7日の取締役会で、鈴木氏が主導した井阪氏の退任案が否決されたことだった。鈴木氏は「信任が得られていない」として退任を表明した。新たなトップに浮上したのは、鈴木氏が退任を求めた井阪氏だった。
中核企業で好業績が続くセブン―イレブンを率いる井阪氏は1980年に同社に入り、商品開発などに携わってきた。強力なリーダーシップでグループ全体を統率した鈴木氏の後を担うことになるため、「コンビニだけをやってきた井阪氏はすべてをみるには力不足」(社内幹部)との見方も出ており、今後は傘下の事業会社のトップらが共同で経営する「集団指導体制」になるとみられる。井阪氏には、鈴木氏にあった最高経営責任者(CEO)の肩書はつかない。
そこで新たに設けられたポストが副社長。秘書室長として鈴木氏の近くにいた後藤氏が就任することになった。後藤氏は管理部門に加え、ネットと店舗の融合戦略を担当する。配下に鈴木氏の次男で取締役執行役員の康弘氏(51)を置くことになる。セブン―イレブンの新社長は同じく鈴木氏に近いとされる古屋氏が登用される。新体制でも鈴木氏の影響力は残り続けることになりそうだ。井阪氏は自らの新たな経営方針を、鈴木氏に近い経営幹部らとどう共有していくかが、これからの課題となる。
鈴木氏自身の処遇については、この日の取締役会では議論に上がらなかった。関係者によると、15日の指名・報酬委員会の前後では、鈴木氏を支持する店舗経営者らに配慮し、「最高顧問」や「名誉顧問」にする案も浮上したが、取締役らの意見も分かれ、結論が先延ばしになったという。
鈴木氏は19日夜、朝日新聞の取材に対し、「現在の引き続きではどうしようもない。だから新しいことに挑戦してもらわないと困る」と語った。
■対応すべき課題多数
セブン&アイは2016年2月期決算で、5期連続で営業利益の過去最高を更新。だが、グループ内には対応すべき課題も抱える。
総合スーパーのイトーヨーカ堂は、衣料や家具の専門店などに押され、16年2月期は、上場以来初めての営業赤字に転落。17年2月期中に不採算店20店を閉めるなどの対策を打ち出しているが、長期的に抜本的な解決策とはなっていない。
百貨店事業のそごう・西武も同様だ。ショッピングモールなどとの競合で売り上げが低迷し、昨年から相次いで各地で閉店を発表してきた。買収した通販のニッセンホールディングスも赤字が続いている。
いずれの事業も鈴木氏の経営手腕でも目立った改善が見られなかった。「もの言う株主」の米ファンド「サード・ポイント」は、スーパーや百貨店事業の縮小や切り離しを求めている。新体制がどのように対応していくかは見通せない。(西尾邦明、奥田貫、石橋亮介)