壁画に保存のための樹脂を吹き付けている場面=竹島卓一さん撮影、法隆寺提供
1949年1月に火災で焼損した法隆寺(奈良県斑鳩〈いかるが〉町)の金堂壁画(7世紀、国重要文化財)について、52~53年ごろの保存処理の過程を記録したモノクロ映像が見つかった。最大7トンにも及ぶ壁画や保護材をほぼ人力で運び出したり、合成樹脂を注入したりする様子を克明に撮影。当時を具体的に語れる関係者はほとんど残っていないため、今後の保存対策に役立ちそうだ。
法隆寺金堂壁画を調査
壁画は火災後、合成樹脂や鉄枠で補強され、現在、境内の収蔵庫で保管されている。壁画の劣化の有無や最適な保存環境を探る第2回「保存活用委員会」(委員長=有賀祥隆〈ありがよしたか〉・東京芸術大客員教授、13人)が27日、同寺で開かれ、文化庁が報告した。
映像は「法隆寺昭和大修理実況」と題され、法隆寺国宝保存工事事務所の所長だった故・竹島卓一さんが撮影・編集した約6時間の無声フィルム。コピーを同寺や遺族が所蔵していたことがわかり、遺族の了解を得て委員会が借り、壁画関連の部分をまとめた。
壁画の大壁4面(高さ3メートル、幅2・6メートル)と小壁8面(同、幅1・5メートル)を厚さ2メートルの木箱型保護具で挟み、金堂脇の処置場へ運び出すシーンでは、手動の滑車などで最大7トンの重量を移動させていた。その模様は2007年の高松塚古墳(奈良県明日香村)の石室解体によく似ているが、機械技術が充実していない時代に作業を人力で進めたことがうかがえる。
処置場では、軽量化のために厚さ約16センチの壁を新たに作った専用工具で半分の厚みに削ったり、壁の裏側に合成樹脂を注射器で注入したりする様子が写されていた。壁の裏側に施した保護用の金属ボルトと金属板を火花を散らして溶接する場面もあり、委員から「壁画自体や壁の強度に影響がなかったか心配」という声も出た。
有賀委員長は「映像は初めて見た。重要な資料で、調査に活用させてもらいたい」と話した。
■作業部会初会合 今年度中に経過報告
保存活用委のもとに設けられる四つの作業部会の初会合も27日、法隆寺で開かれた。各部会は今年度末までに途中経過をまとめ、保存活用委に報告する。
部会のメンバーは、①保存環境(座長=佐野千絵・東京文化財研究所文化財情報資料部長、5人)②壁画(14人)③建築部材(座長未定、7人)④アーカイブ(記録調査、座長未定、4人)――の計30人。壁画は美術史班(座長=梶谷亮治・奈良国立博物館名誉館員、6人)と材料調査班(座長=高妻洋成・奈良文化財研究所保存修復科学研究室長、8人)に分かれる。
いずれも国立文化財機構や大学などで保存科学や美術史、建築史などを担当する研究者で、奈良県明日香村の高松塚、キトラ両古墳(7世紀末~8世紀初め、特別史跡)の極彩色壁画取り外しや保存処理にあたった専門家も多い。
保存活用委は文化庁と朝日新聞社の協力のもと、2019年1月をめどに中間報告をまとめる予定。一般公開の可能性も検討する。(編集委員・小滝ちひろ)
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〈法隆寺金堂壁画〉 現存する日本最古の仏教絵画で、インド・アジャンタ石窟(せっくつ)群や中国・敦煌莫高窟(とんこうばっこうくつ)と並ぶ世界的な傑作。釈迦如来や薬師如来などの群像を描いた大壁4面と、様々な菩薩(ぼさつ)像を描いた小壁8面の計12面からなる。