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熊本県を中心にした一連の地震で、同県と県内市町村が管理する道路や橋などの公共土木施設の被害額が、県の中間集計で1700億円を超える見通しとなった。復旧には巨額の費用と技術的課題の克服が必要で、全くめどが立たないものも多い。なかでも、4月16日未明の「本震」で阿蘇大橋が崩落した南阿蘇村の被害は深刻で、村が東西に分断される危機に陥っている。
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熊本地震 災害時の生活情報
「本震」から3週間の7日。崩落した阿蘇大橋の西側にある立野地区周辺は、大破した家屋の角材や衣類、テレビや炊飯器、本などが泥にまみれて散乱し、人影はまばらだった。
後片付けに戻った3人のお年寄りが、道端で話し込んでいた。70代男性は「水がこんけん、どぎゃんもならん」。別の男性は「立野は消滅やな」と漏らした。
住民約860人の立野地区は地震と土砂崩れで多くの建物が倒壊し、3人が死亡した。村中心部の東側とつなぐ阿蘇大橋が崩落し、国道57号やJR豊肥線、南阿蘇鉄道も途絶。車で10分ほどだった東側へは約1時間の遠い道のりになった。
新たな土砂災害の危険もあり、住民の多くは西隣の大津町の体育館に避難している。村は、立野地区住民向けの仮設住宅を大津町内に設ける方向で調整中だ。橋を通って小学校に通っていた児童38人のうち23人が村外の学校に通学する。
自宅の中2階がつぶれた80代男性は、大津町に建設予定の仮設住宅に入るつもりだ。「梅雨はこれから。土砂崩れが怖くて戻りたいとは思えない」。立野が生まれ故郷といい、「今のままだと立野はおそらくなくなってしまう。さびしさや悲しさを通り越した気持ちだ」と下を向いた。
東西の分断で救急搬送も困難を伴う。同村一関の特別養護老人ホーム「水生苑」(入所者50人)は地震前、橋を渡って車で15分ほどの阿蘇立野病院などに搬送する態勢をとっていた。今、入所者の容体が急変したら山中の迂回(うかい)路を通り、1時間かけて南隣の山都町内の病院に運ぶという。入所者は平均年齢約88歳。山部ひとみ施設長は「いつ何があってもおかしくない」と心配する。通勤が難しくなり、退職を決めた正規職員もいるという。
主要産業の観光への打撃も大きい。道の駅「あそ望の郷くぎの」支配人の山部武志さん(53)は「迂回路の山道を越えないと来られず、雨だと観光客は極端に少なくなる」と話す。大型連休中の売り上げは、例年の3分の1~5分の1ほどに落ち込んだ。
熊本県によると、県管理分と市町村管理分を合わせた4月26日現在の土木施設の被害は3443カ所、被害額は1709億6千万円。橋梁(きょうりょう)(377カ所)の被害額が498億円と最も大きかった。(真野啓太、古田寛也、伊藤秀樹)