パナマ文書には会社設立の証明書や本人確認書類などが含まれている
約80カ国のジャーナリスト約400人が国や報道機関の枠を超えて取り組んだ「パナマ文書」報道。日本からも国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)と提携する朝日新聞と共同通信の記者が参加した。どのように膨大な極秘データを共有し、取材に取り組んだのか。
特集:「パナマ文書」の衝撃
■住所地の法人に手紙を出すと……
ICIJの副事務局長からメールが朝日新聞の記者のもとに届いたのは、1月23日だった。
「新しいプロジェクトに朝日新聞も参加してほしい。タックスヘイブン(租税回避地)が日本を含む世界各地の資金隠しを助けている問題だ」とあった。
電話で概要を聞き、提携に関する合意書を送った。2月18日、パナマ文書の電子ファイルのデータベースにアクセスできるパスワードが送られてきた。
ファイルは2・6テラバイト。タックスヘイブンにある21万余の法人の情報が含まれていた。旅券のスキャン画像もあれば、アイスランドの前首相の署名の入った株式譲渡合意書もあった。
21万余の法人の株主や役員のうち、日本が住所地とされるのは個人と企業で計400余。ICIJがリストにまとめていた。朝日新聞記者らがこれらの住所地を日本語に直し、日本人とみられる相手に手紙を出した。しかし、あて先不明で多くが戻ってきた。
カリブ海の英領アンギラ島に昨年12月、設立された法人の株主とされる日本人も、そうした一人。住所地となっている北関東の繁華街を記者が実際に訪ねたが、住所は実在しなかった。法人の名をネットで検索すると、「当サイトのカップル成立率は92・4%」との画面が現れた。いわゆる出会い系サイトだった。
英領バージン諸島に2005年に設立された法人の株主の場合、名前は東京都内にある学習塾の運営会社と同じで、所在地は同社の株主のブライダル会社と同じだった。ブライダル会社の社長は現在、政府に助言をする非常勤の役職も務めている。
学習塾運営会社にたずねると、「出資の事実はない。勝手に名前が使われたのだろう」との回答だった。ブライダル会社の社長は「何も知らない」と回答。「住所貸しを承諾したこともなく、郵送物が送られてきたこともない」と説明した。
こうしたなかで、記者たちは、各種のデータベースや住宅地図、登記簿を調べ、関係者の証言を集め、実態の取材を進めた。
提携では取材データを共有するが、それをどう評価し、報じるかは各社の判断に委ねられている。朝日新聞は共同通信とも情報交換し、資産や利益を租税回避地に移して納税額を減らそうとした人がいたことや、中国進出の際に日本企業であることを隠そうとした美容グループなど中国ビジネス関連での租税回避地利用が多いことなどを報じた。