やりすぎ? 足りない? 部活動
このシリーズでは活動時間の長さや、教員、生徒の負担の大きさが、今の中学の部活動の問題点として浮き彫りになりました。最終回はアンケートに寄せられた提言を紹介します。長野市での学校と地域クラブの連携、1週間の活動時間が3時間未満という、これまでの運動部の考え方を覆す東京の「ゆる部活」を訪ねてみました。
アンケート「正社員、どう思う?」
■地域クラブ、だれでも参加
長野市の総合型地域スポーツクラブ「長野スポーツコミュニティクラブ東北(スポコミ東北)」は2012年から、市立東北中学を中心に小、中、高校生のつながりを大切にする連携活動をしています。異なる年齢の子が陸上競技、サッカー、バスケットボールの3競技にかかわります。
理事長の柳見沢(やなみさわ)宏さん(64)によると、山の多い長野県では特に日没が早い冬場、もっと部活動がしたいという声がありました。そこで2年前、東北中の部活動支援を始めました。3競技以外も部活動がない日などに練習できるようにしています。
その際も、単独の部活動ではなく、だれもが参加できるという理念を、教職員や保護者に共有してもらっています。中学生が小学生に教えたり、大人や高校生から教わったりすることで、スポーツにはいろんな目標、目的を持ってかかわる人がいることを感じてほしいそうです。
スポコミ東北に行けばバスケやサッカーができる、と友だちを連れて来てくれる卒業生もいます。他にない活動という評価を受けています。一方、一部の種目は指導を中学校教員に頼っているため、教員の負担軽減につながっていない点が課題です。(片山健志)
■ゆるく運動「体力向上部」
東京都世田谷区立東深沢中には始業前の40分間だけ活動する「体力向上部」があります。馬跳びで校庭を1周したりミニハードルをよけながらジグザグに走ったり、ほどよい負荷の運動ばかり。陸上部の指導経験がある顧問がメニューを組みます。朝8時の解散まで笑い声が絶えません。55人の部員がいます。
運動部をやめた生徒の受け皿にと4年前に設けました。活動は週4回の朝練のみ。「緩さ」がいいのか、放課後は習い事や学習塾で忙しい生徒も参加します。
同校が2012~14年度に実施した調査では、運動部員の「運動が好き」「もっとしたい」という気持ちは上級生になると弱まる傾向がありました。でも、体力向上部の部員は維持していました。部を立ち上げた松平昭二前校長は「競い合うのではなく、仲間と楽しく体力向上を図ることで自己肯定感を生む効果もあるようだ」と分析します。(伊木緑)
■寄せられた提言は
どうすれば、みんなが満足できるのでしょうか。アンケートには多くの提言が書き込まれています。
●「思春期の運動についてのスポーツ科学者や専門家の意見を聞き、最高1日何時間週何回という適正基準を文部科学省が出すべき。指導者は専門性がないと誤った指導をしてスポーツ障害などを起こしかねないので、教員だけではむり。風通し良くするためにも学校外のスポーツトレーナーとか入れる。医師や保健師など健康相談も行えるようにする」(千葉県・60代女性・中学生の家族)
●「部活動指導免許制を導入する他ない。制度改革をていねいに行うことで、この問題は氷解する」(静岡県・40代男性・中学生の親)
●「学校生活での逃げ場や居心地のいい居場所、得意を見つける場所としての部活も希望します。やめていった子どもの本音を聞き出せたら、よりよい学校生活につながると思います。運動部にも遊び的な部分がある部の新設(ゆるスポーツなど)、人数が少ないなら近隣の学校と週1回でも交流、など。対人関係が苦手な子や、特別支援が必要な子にも楽しめるゆっくりめのいいスペース(時間も空間も)期待します」(大阪府・50代女性・中学生の親)
●「スポーツ系の部活は全て週5~7日もあるため、入部するには相当な覚悟が必要です。適度にスポーツを楽しみ、体力を向上させられるような部活があるといいのに、と思います。活動日が週2~3日の運動系、文化系を兼部、というのが理想です」(東京都・40代女性・中学生の親)
●「部活動の指導は、教科指導とは別物と考えるべき。予算を計上し教員を増やし、研修を充実させることが必要だと思います」(東京都・40代男性・教員)
●「部活で上位入賞を目指すように指導となると、どこかでひずみが出ると思う。部活は生徒指導の一つというのであれば、全国大会や上位大会を作らず、地域だけでやればよい」(茨城県・30代女性・その他)
●「生徒の部活選択期間に余裕を持たせることと融通を求めたい。顧問の技量、子供との相性、取り組み意欲の差など、入ってから分かることが多いのに融通がきかなさ過ぎる。そこらへんをお互いアンケートでも取って相性を見極めるようにしたらいいのでは」(埼玉県・40代女性・中学生の親)
●「自分がやりたいものと、やりたい生徒とで、やるのが一番! ただ、年度ごとに人事異動があるので同じ部活を続けられない、ということがあると思います。新年度、改めて生徒や保護者の希望をよく確認して、必要ならば地域の外部指導者に教育委員会が速やかに依頼して、活動を受け持ってもらうと良いと思います。事前に地域の中で、部活指導者の登録や、説明会等、スムーズに移行できる用意があると良いですね」(埼玉県・30代女性・教員)
●「運営を生徒の自主性に任せる。予算分配から全て。顧問は普段は必要な時に責任を取るだけの存在で十分。練習メニューも試合登録も生徒に任せるべき。それが子供の自立を促す。部活とは、いや教育とは本来そういうものではないか」(東京都・40代男性・その他)
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中学生の声を紹介します。
●「ただ強い部活がいい部活ではない。しかし顧問の力不足で、お遊びのようになってしまうのはとても残念。思い切りできる時間は限られているから中学生の間だけでもその部活を思い切りやりたい。だから、外部の指導者を呼んで、もう少し充実した部活動を作ることがいいことだと思う」(東京都・女子)
●「顧問より先輩や同級生の目が怖くなかなか休めません。定休日をちゃんと定めて欲しいです」(東京都・女子)
●「生徒にアンケートをとってほしい。字体で誰が書いたかわからないように匿名、マルバツ式で。部活終了が延びるため、3年のほとんどは上位大会まで行きたいとは思ってないのがわかるはず。顧問の先生の自己満足では? はやく受験に集中したい」(神奈川県・女子)
●「中学3年生、合唱部に所属しています。私は合唱が大好きなので、減らされたら怒ります(笑)。他の部活の友達はないほうがいいと言いますし、人や部によりけりです。親とか教育委員会が決めるのではなく、全国の中学生や高校生の意見を中心に取り入れて欲しいです。なんだか勝手に決められるのは納得がいきません」(長野県・女子)
●「部活に関することをアンケートや教育委員会の意見だけで決めないこと、生徒に選択権を与えれば大きな問題にならない。中高生の部活動は将来の夢(野球選手、サッカー選手等)が関わっていることも少なくなく、大人の勝手な判断で夢を壊されては困る」(群馬県・男子)
■曲がり角迎えた部活動、これからも取材します
中学生の8割以上が加入しているとみられる部活動。その課題やあるべき姿を探る2回のアンケートには計5627の回答が寄せられました。教員が約30%を占める一方、中学生は約2%にとどまりましたが、関心の高さはうかがえます。
部活動にかかわる人の多くが、今の活動時間は「長い」と感じているようです。では、なぜ短くならないのでしょう。アンケートの自由記述から読み取れるのは、たくさん練習をすることに肯定的な指導者や親に対し、ものを言いにくい空気です。
教育課程外にあることから、部活動の活動内容は指導者の考え方次第で大きく変わります。きつくても最後まで続けないと高校入試に不利になるのでは、という不安も生徒側にはあるようです。
部活動は本来、生徒の自主的な活動であるはずです。多様性をもっと認めていいのではないでしょうか。活動時間や内容を生徒、顧問が話し合って決めるのも一案だと思います。学校外との協力、活動時間の見直し、生徒の自主性の尊重など、曲がり角を迎えている部活動のこれからについて取材していきます。(編集委員・中小路徹)
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◆ほかに高橋玲央、村上研志が担当しました。
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