山王谷川上流では、決壊した砂防ダムの一部とみられるコンクリートの塊が水田に転がっていた=19日、熊本県南阿蘇村の長野地区、河崎優子撮影
熊本地震の発生から1カ月余り。本格的な田植えシーズンを迎える熊本県の農村では地震の爪痕が深く残る。田植えの断念、転作、離農……。被害の大きい南阿蘇村や益城町などでは、被災農家が苦しい選択を迫られている。
水田2割、田植え断念も 2度の震度7、益城町周辺地域
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南阿蘇村の長野地区では約100世帯の8割が今なお避難を続けている。山あいの棚田にコンクリートの塊が二つ転がる。上流にある山王谷川の砂防ダムが決壊。川から田んぼに流れ込んだ土石流が運んだとみられる。流木や巨石もある。それらを取り除く重機約10台が田を行き交い、まるで工事現場のようだ。
この時期は例年、水を張った棚田がみられるが、今はほとんど干上がっている。土石流で水源の取水口が壊れ、田に引く水がない。
地区住民の多くは農家で、米やブランド牛「あか牛」を育てている。だが、今年は田植えができる農家は1割にも満たないと村人たちは話す。
本震後の断水で稲の苗が枯れてしまった長野精一郎さん(69)は、今年の田植えをあきらめた。水田復旧工事をすれば国の補助が出るが、全額ではなく復旧費用を賄いきれない。「転作する気力もない」と肩を落とす。
長野正男さん(65)も今年は断念した。「家の片付けで手いっぱい。やる気が出ない。新しい作物を植えるのにも抵抗がある」。農業をやめ、この地区から出ていくことも考えている。