米軍嘉手納基地のゲート前を埋めた参加者は、被害女性に黙禱(もくとう)を捧げながら「全米軍基地撤去」のカードを掲げた=沖縄県北谷町、矢島大輔撮影
沖縄県うるま市の会社員女性(20)が遺体で見つかり、元米海兵隊員の男が死体遺棄容疑で逮捕された事件に抗議する動きが、オバマ米大統領が来日した25日も沖縄で続いた。男が勤務していた沖縄本島中部の米軍嘉手納基地前では緊急の抗議集会が開かれ、約4千人(主催者発表)が集まった。周辺10市町村の首長らは米軍や政府機関に日米地位協定の改定などを訴えてまわった。
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嘉手納基地前には黒色の服で花束を持つ人の姿も多く、集会前には被害女性に黙禱(もくとう)が捧げられた。「全米軍基地撤去」と記した紙なども掲げられた。集会は、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設に反対する政党や市民団体、企業でつくるグループが呼びかけたもの。代表してあいさつした名護市の稲嶺進市長は「暴行事件のたびに抗議行動を起こしても、『綱紀粛正』をオウムのように繰り返される。もうがってぃんならん(我慢できない)」と憤った。
オバマ大統領や安倍晋三首相に対し、米軍基地の大幅な整理縮小を求める決議も採択された。「早急に具体的な解決策をとらなければ、戦後最大級の『県民総ぐるみ基地撤去運動』が展開されるだろう」と読み上げられた。
基地に向かって拳を突き上げる人たちから少し離れた場所で、5歳と0歳の娘を連れていた沖縄市の会社員伊波瞳子さん(35)は取材に対し、オバマ大統領への思いを涙ながらに話した。「これが平和って言えますか。沖縄に住んで娘を夜道で歩かせられますか」
被害女性が住んでいたうるま市など、沖縄本島中部の10市町村の首長らも同日、政治的立場を超えて共同で抗議。在沖米軍トップがいるキャンプ・フォスターや在沖縄米国総領事館、外務省沖縄事務所を訪れ、綱紀粛正や日米地位協定の抜本的な改定を求めた。
沖縄防衛局では、井上一徳局長に北中城(きたなかぐすく)村の新垣邦男村長は「凶悪犯罪はほぼ海兵隊が関わっている。撤退しかないという意見もある」。うるま市の島袋俊夫市長は「日米地位協定が根底にあって、米兵と軍属の優位的な意識が、事件の多発につながっているんじゃないか」と迫った。(矢島大輔)
■「具体策なく落胆」「言葉響かず」
オバマ米大統領は25日の日米首脳会談後の共同会見で、沖縄で女性の遺体が遺棄され、米軍属が逮捕された事件に「哀悼と遺憾の意」を表明した。沖縄の人々は、米軍の「最高司令官」の言葉を様々な気持ちで受け止めた。
「大統領が具体的な対策を示すかもしれないと期待していただけに、がっかりした」。自宅のテレビで会見を見たという沖縄県北谷町の野国昌春町長は語った。同町は、逮捕された米軍属が働いていた米軍嘉手納基地を抱える。野国町長はこの日の昼、県内にある日米の関係機関に出向き、実効性のある対策を求めたばかり。
だから、オバマ大統領の言葉に「冷たい印象」を受けたという。「沖縄県民が何を求めているか、日本政府から知らされていないのではないか。沖縄に関心を持っていないと感じた」
那覇市の山本藍さん(38)は4歳の娘を寝かしつけた後、会見を見た。「沖縄の気持ちに寄り添う」「心の底からのお悔やみと深い哀悼」との両首脳の言葉があまり響かなかったという。「早く火消しをして辺野古への移設を進めたいパフォーマンスにしか見えなかった」。山本さんは昼にあった嘉手納基地前の抗議集会に黒い服を着て参加した。「沖縄の犠牲ありき、日米安保ありきの政治を改めるきっかけにしてほしかった」