関西電力大飯原発3、4号機(福井県)の運転差し止め訴訟の控訴審にからみ、新規制基準に基づく2基の審査のまとめ役だった元原子力規制委員会委員長代理の島崎邦彦氏(70)が、関電が地震の規模の算定に用いた手法を「過小評価となる可能性がある」とする陳述書を、名古屋高裁金沢支部に提出した。陳述書を依頼した原告側弁護団が7日、明らかにした。規制当局の元責任者が法廷で関電側に異論を挟む異例の展開になった。
島崎氏は地震学者で東大名誉教授。昨年の学会での講演などで、日本海の津波想定の見直しで国が採用した地震モーメント(規模)の評価手法について「(断層の条件によっては)過小評価の可能性がある」とし、他の手法より4分の1程度になる場合があると主張した。地震モーメントは想定される最大の揺れ「基準地震動」を決めるもとになる。
原告側はこれまでの審理で、関電が大飯原発の地震想定でも同じ手法を用いているとして、島崎氏の主張を証拠として書面で提出。関電側が大飯原発の基準地震動の評価と無関係と反論したため、島崎氏自らが「私の指摘の射程は(大飯原発にも)及ぶ」と今回の陳述書で再反論する形になった。
島崎氏は規制委が発足した2012年9月に委員長代理に就任。2年間の任期中、原発の新規制基準に基づく審査で専門家会合のまとめ役を務め、各原発で想定される基準地震動の見直しを求めた。関電は大飯3、4号機について当初の700ガルから同じ評価手法で震源の深さなどを変えて段階的に856ガルまで引き上げた。島崎氏は自民党などから「審査が厳しすぎる」と批判を受けた。14年9月に退任。大飯原発の基準地震動は1カ月後に856ガルで了承されたが、審査は今も続く。
一方、規制委の担当者は7日、取材に対し、関電の手法が過小評価する可能性や、断層の長さなど不確実な部分も織り込んだ上で、余裕を見て基準地震動を了承したと説明。「島崎氏の陳述書で想定される最大の揺れや審査そのものが揺らぐとは考えていない」と話した。
関電広報室は「断層の長さ、幅、傾斜角を把握した上で保守的に、国の地震調査研究推進本部で採用されている手法を用いて地震動を評価している。過小でない」とコメントを出した。
大飯3、4号機の運転差し止め訴訟は、福井県民らが12年11月に福井地裁に提訴し、14年5月に勝訴。関電側が名古屋高裁金沢支部に控訴し、今月8日に第8回口頭弁論がある。