四万十川のほとりで田舎暮らしの魅力を語る、「いなかパイプ」の佐々倉玲於(れお)代表理事=高知県四万十町
■就活する君へ
いなかパイプ代表理事・佐々倉玲於さん(37)
――田舎で働きたい人向けのインターンシップを展開していますね。
「田舎で働きたいけど、どうしたらいいかわからない、という人向けに、高知県四万十町で短期間、働いてもらっています。春はお茶の収穫期なので、製茶農家で収穫をしたり、商品の小売りを体験したりしてもらいます」
「1カ月間、共同生活をしてもらい、知り合いをつくり、田舎で暮らすきっかけになればと思います。これまで200人以上が参加して、25人が同町に定住しました」
――どんな人が関心を持つのでしょうか。
「都会は便利で、何か事業を始めるには適しています。でも、自然の中で自分らしく生きたい、という人が関心を持ってくれます。田舎は若者が少ないので、都会の人に少しでも興味を持ってもらいたいのです」
――どんな働き方をするのですか。
「お茶農家で働く場合は、製茶業だけでなく、農閑期にカヌーを教えたり、道の駅で特産品を売ったり、シイタケや栗の栽培をしたりします。廃校になった小学校で宿泊施設を手伝う人もいます。のんびり暮らすわけではありません」
「賃金は最初は月に15万~20万円程度でしょう。大企業に勤めるのとは違い、どう働くかを考え、仕事をつくり出さなければいけません。個人事業主のイメージが近いかもしれません」
――地方では過疎化が進んでいます。
「農業をするにしても、農協や役場頼みでは生き残れない時代です。自分たちで地域の資源を見直して、新しい価値を発信しなければなりません。農産品を出荷するだけでなく、商品を開発し、消費者まで届けなければいけないのです」
「田舎は高齢化が進んでいます。ある製茶農家は、都会への販路も開拓して事業は順調なのに、後継者がいないため廃業を決めました。こうした事業者は多く、若者不足で地域産業が衰退しています。非常にもったいないことです」
「田舎には、若者の力を借りて、地域の潜在的な力を引き出してほしいと思う人は多いです。そのために、田舎に関心がある若者が、都会から環流できる道をもっと太くしたいのです」
――今の事業を始めたきっかけは。
「大学在学中に、商店街を活性化するNPO法人に参加しました。店主たちと活性化策を考え、その結果が見えるのが楽しかった。小さいコミュニティーで、個人が尊重される喜びもありました」
「その後、自分の力でやってみたいと思い、四万十町に来て、『いなかパイプ』を立ち上げました。一人一人の顔が見える身近な地域を将来も残していきたいと思っています」
――若者へのメッセージは。
「今は就職先はたくさんあります。そんな中で、田舎で働くという選択肢もある、ということを伝えたい。都会とは違い、皆が自立して生活し、顔の見える関係があります。突然地方に行って、生きていけるか不安もあるでしょうが、田舎は担い手不足なので仕事はあります。関心がある人は是非飛び込んできてもらいたいです」
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ささくら・れお 高知県大月町出身。琉球大学在学中、NPO法人などで、商店街活性化に携わった。その後、同県四万十町で2010年、一般社団法人「いなかパイプ」を設立。UターンやIターンを支援する事業を行っている。
■取材を終えて
四万十町は、涼しい風が吹き、緑が豊かでした。四万十川に沿って田畑があり、山では栗やシイタケが栽培されている。生活と自然が調和していました。働く人は、自然の恵みを受けるだけでなく、自主ブランドを立ち上げ、販路を開拓していました。こうした取り組みが、人口減の中で生き残っていく理由なのでしょう。待ちの姿勢では通用しないのは、田舎も都会も一緒だと感じました。(古賀大己)