■360度動画「いきもの目線」
貝殻や小石が敷き詰められた上を、足元に気を配りながらそうっと歩く。地面にいる鳥のヒナや卵は砂利の色とそっくりなので、うっかり踏んでしまわないかとひやひやする。撮影ポイントに入って、ファインダーをのぞいた。確かに、あそこにもここにも、絶滅危惧種「コアジサシ」のヒナがいる。ピーピーという小さな鳴き声も聞こえてきた。
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ここは、羽田空港の対岸にある下水処理施設・森ケ崎水再生センター(東京都大田区)の屋上。広さ6ヘクタールもある、日本有数のコアジサシの集団営巣地だ。保護団体「リトルターン・プロジェクト」(LTP)が2001年から調査を続けている。
スタッフの案内で、ヒナが2羽いる巣の近くに360度動画撮影用カメラを設置した。しばらく待っていると、いきなりレンズの目の前に親鳥が現れた。エサの小魚を探しにいっていたのだろうか。ヒナがピーピー鳴き始め、親鳥も鳴き返す。ヒナが親鳥を見上げるような、愛らしい姿をとらえることができた。
天敵のカラスや、ハヤブサも出没した。親鳥たちが一斉に舞い上がり、キリッ、キリッと鳴きながら集団で急降下して追いはらう。カラスよけの仕掛けを設置しているが、それでも、私たちの目の前でカラスにさらわれたヒナがいた。
日本にいるコアジサシは、冬場はオーストラリア周辺で過ごすと言われている。同プロジェクトの北村亘代表によると、今年は約1500羽が飛来。6月上旬までには約500羽のヒナが生まれたが、月末までに9割がいなくなってしまったという。「今年はカラスによる被害が厳しい。卵やヒナを食べられて、営巣を諦めた親鳥もいる。それでも、必死に生き延びようと隙間に隠れているヒナたちがいる。頑張って欲しい」。
この日は、越冬地の解明のため、成鳥にGPSを取り付ける作業が進められていた。北村代表は「GPSを取り付けた成鳥が来年も元気な姿を見せてくれれば、正確な越冬地やルートの解明ができる」と期待している。(竹谷俊之)