開会式で行進する向陽の選手ら=和歌山市の紀三井寺球場、真田嶺撮影
13日に始まった和歌山大会の開幕試合は、向陽―箕島の伝統校同士の対決だ。向陽(旧海草中)は1939、40年に全国中等学校優勝野球大会で連覇。伝説の左腕・故嶋清一投手らが活躍した。箕島は名将・故尾藤公(ただし)さんが率い、春夏4回の甲子園優勝を誇る。選手たちは伝統を築いたOBの思いを感じながらも「自分たちらしく戦う」と誓う。
動画もニュースも「バーチャル高校野球」
大会開始から四半世紀を迎えた39年、嶋投手は準決勝と決勝で2試合連続ノーヒットノーランを達成。だが、太平洋戦争で学徒出陣して戦死した。2008年に野球殿堂入りした。向陽の選手は偉大な先輩に関する本を全員が読み、その姿を通して野球ができる喜びを分かち合っている。
高校野球101年。海草中の歴史は21年に始まる。「これまでは海草中の伝統が大きかった」と堀内孝貢(たかみつ)監督(65)。「これからは野球も勉強もする環境で、向陽の新たな伝統も作っていかなくては」と語る。
監督として箕島と戦うのは77年の夏以来という。当時の和歌山大会準決勝では0―4で箕島に軍配が上がった。堀内監督は「せっかく箕島とやるなら勝ちたい」。主将の沖田竜太郎君(17)も「ここで、嶋さんも練習していたんだと誇りに思う。新しい向陽の野球の歴史を作りたい」と意気込む。
かつて「尾藤スマイル」で甲子園を沸かせ、箕島は一時代を築いた。現在は公さんの長男の尾藤強監督(46)が率いている。
7月初旬、毎年恒例の夏の大会前のOB講演会があった。壇上に立ったのは、79年に春夏連覇を成し遂げた時の主将、上野山善久さん(55)だ。79年夏の星稜(石川)との延長18回の激闘は「球史に残る名勝負」として今も高校野球ファンに語り継がれる。主将の滝本塁貴(るいき)君(17)が質問した。「甲子園ってどんなところですか」
上野山さんは初めて甲子園に立ったときのことを話した。「入場行進で見えたスタンドの風景や聞いた歓声――。これまでにない高揚感を覚えました」。上野山さんの姿を、選手は食い入るように見つめていた。
上野山さんは「技術だけでなく、プラスアルファで『思い』を持っているチームが強い。それぞれの思いを胸に、100%力を出し切ってほしい」と願う。
13日の開会式。紀三井寺球場には天候不順の中、次々と観客が訪れた。向陽の卒業生の川端さよ子さん(49)は「平和で試合ができる喜びを感じながら全力で頑張ってもらいたい」とエールを送っていた。(真田嶺、金子和史)