野球部応援テスト。紗也香が下級生の動きを見ていた=11日、岐阜県大垣市、筋野健太撮影
憧れの舞台、甲子園。球児だけが目指す場所ではない。応援に青春をかけるチアリーダーも同じ。負けると野球部とともに引退だ。どんなに苦しくても、勝利を信じて笑顔を絶やさない。選手が厳しい練習に耐えてきたのを知っている。だから、頑張れる。
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「自分が球場にいると思って! 楽しくなれるから」。11日、大垣日大高校(岐阜県大垣市)。同好会部長の北河紗也香(きたがわさやか)(18)が下級生を叱咤(しった)していた。応援曲が流れ、下級生26人が一人ずつ踊った。通称・野球部応援テスト。3年生が笑顔や声量、振り付けの正確さを評価する。球場の応援場所は限られ全員が踊るのは不可能だ。今夏は9人がユニホームを着られない。紗也香は「応援は力になれる」と確信している。だから求めるものは高い。
紗也香は小学1年の時、3歳上の姉に誘われてダンスを習った。姉は大垣日大に進学し、チアに入った。中学3年生のとき初めて甲子園を訪れた。球場を包む大歓声。姉がいるチアが熱気を高めていた。「私も大垣日大のチアになる」
野球部の応援のために結成されたチア。2007年春の選抜に初出場した際に作られた応援団のメンバーが「応援を続けたい」と同年夏に立ち上げていた。
一昨年、1年生の紗也香。同級生が横に並び一人ずつ校庭で選手の名を叫んだ。何回叫んでも20メートル離れたコーチが首を縦に振らない。「あなたのは腹の底からの声じゃない」。悔しさをかみしめ自宅で腹筋を鍛えた。ためらいも消えた。
その夏、野球部は快進撃を続けた。決勝の朝、誰よりも早く長良川球場に着き、向こうに見える岐阜城に手を合わせた。「勝たせて!」。そして優勝した。
甲子園の応援席。胸が高鳴った。待っていたのは大会記録タイとなる8点差からの逆転劇だった。一回表に大量8失点。当時の三塁手野崎文志(ぶんじ)(20)が応援席を見て、声を張り上げた。「1点ずつ取ってけば勝てる」。猛追劇が始まった。八回裏2死二塁。文志は勝ち越しの2点本塁打を放った。応援席の方に右手を突き上げた。「応援が打たせてくれた」と思っている。
紗也香は昨秋、部長に選ばれた。友達付き合いでよかったみんなに、指導したり注意したりする。だが、向けられた視線が冷たく感じ、落ち込んだ。「まとめ役に向いていないのかな」
練習中の私語を注意できず、仲間に言われた。「そんなんじゃ名前だけの部長になるよ」。「なってたまるか」。チームのことを必死に考えた。野球部の試合のDVDも見た。「誰もが楽しくなる応援」という原点がよみがえってきた。
夏の大会で、応援席最前列で踊るのは3年の1人だけ。「どうやって決める?」とミーティングで尋ねた。「自信があるなら、立ちなよ」と言われた。これまでを思い返した。誰よりも、応援に打ち込めたと思えた。自信を持って答えた。「私が踊る」。
17日の岐阜大会初戦は7回コールドで勝利した。少しでも長い18歳の夏に、したいと思う。=敬称略(長谷川健)