スタンドの最前列で後輩たちに声援を送る矢部の本田菜々さん=熊本市中央区の藤崎台県営野球場
高校野球熊本大会の出場校に、背番号のない「女子主将」がいる。矢部(熊本県山都町)の3年生、本田菜々さん。規定で選手としてベンチに入れないが、3年間練習に打ち込んで最後の夏を迎えた。17日の初戦は、スタンドから声援を送った。
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開幕を2日後に控えた7月8日、矢部の部員たちに背番号が手渡された。「頼んだぞ」。上田竜治監督(28)はそう言って一人ずつ背番号を渡していった。
9人いる部員のうち見守るだけだったのが、唯一の3年生で主将の本田さん。背番号をもらう後輩を見る本田さんのほおを涙がつたう。それでも、笑顔で後輩に拍手を送った。上田監督は「今までよくがんばったな。精いっぱい応援するぞ」と声をかけた。
規定で女子は出場できないため、本田さんを含めて9人しか部員のいない矢部は、熊本大会で他の部活動から助っ人を借りる。本田さんは過去2年、夏の大会はスタンドで応援した。「グラウンドまでちょっとしか離れてないのに、その距離がもどかしい」
中学ではソフトボール部。地元に残りたいと進学した高校にソフト部はなく、野球部に入った。右投げ左打ちの二塁手。グラブは毎日磨く。守備用の手袋には「野球ができることに感謝」と記す。
だが毎年、大会の背番号をもらう日には泣いた。試合に出られず、ベンチにも入れない現実を突きつけられる。「悔しいというよりは、うらやましい」。公式戦に出られないことは承知で入部したが、1年の頃から男子部員と一緒に練習してきた日々が、そんな気持ちにさせた。
昨夏、先輩が引退すると最上級生は本田さんだけになり、主将に指名された。後輩に技術では劣るものの、「声出しや全力ダッシュを怠るな」と鼓舞してきた。エースの山下永遠(とわ)君(2年)は「いつも周りのことを考える存在」と尊敬する。17日の試合前、後輩たちはベンチの前ではなく、本田さんがいるスタンドの前で円陣を組んだ。
最後の夏。記録員になる方法もあったが、親友のマネジャー小松里奈さん(3年)に託した。「私は選手としてがんばってきた。最後の夏はやっぱりユニホームを着たい」。この日、背番号のないユニホームで、スタンドの最前列から声援。試合には敗れたが、「自分の出せる限りの声で応援できたので、高校野球に悔いはない」。将来の夢は、女子プロ野球の選手になることだ。(大森浩志郎)