練習する伊奈学園の応援ブラスバンド部=埼玉県伊奈町
夏の埼玉大会がもう、幕を開けたようだ。青空の下、歌声とともに「鉄腕アトム」のメロディーが聞こえてきた。
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伊奈学園(埼玉県伊奈町)の中庭。鉄腕アトムの替え歌「伊奈学アトム」や「サウスポー」「タッチ」といった応援歌のラインナップを、チア部とともに元気よく演じているのは「応援ブラスバンド部」だ。
トロンボーン、ホルン、フルート、クラリネット、サクソフォン、打楽器……。楽器は充実しているが、全日本吹奏楽コンクール常連でもある同校の「吹奏楽部」とは別の部だ。
「応援のために練習している」。トランペットの和田澪さん(3年)は胸を張る。「コンクールもあるほかの吹奏楽部に比べて、応援にかける思いは負けません」。野球部やラグビー部などの応援こそが、51人の部員にとって晴れ舞台だ。
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開校4年後の1988年にできた応援ブラスバンド部。運動部から要請があると応援へ出向く。
多くの吹奏楽部とは、こだわるところが違う。「音を合わせることより、ずっと吹き続けられる体力が大事」と部長の池田唯さん(3年)は言う。1時間、15曲ほどを吹き続けたり、腹筋や背筋などの筋トレをしたり。広い球場でどれだけ迫力ある音を飛ばせるかも重要だ。
池田さんは中学で陸上部だった。「ファイト!」といった応援の声のおかげで頑張れた体験から「今度は私が応援したい」と入部した。トランペットの和田さんの入部動機は「野球が大好きだから」。兄が野球部員で、毎年夏は応援に。野球部のマネジャーも考えたが「いつも後ろ向きな兄が、応援を受けているときに輝いて見えたのが忘れられなかった」。応援したくて高校から楽器を始めた。
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最大の舞台は夏の高校野球だ。応援シャツをデザインし、ベンチに飾る折り鶴も作る。日焼け止めやスポーツ飲料、楽器への直射日光を避けるためにタオルを巻くなどの対策もお手の物。和田さんは「選手も大変だから、自分たちがへこたれてはいられません」と頼もしい。
ブラスとともに52人のチア部も観客席を盛り上げる。部長の永塚みゆさん(3年)は「どんなに疲れていても笑顔は崩しません」。ブラスとチアで週1回の合同練習をし、埼玉大会前には控えの野球部員も加わって磨きをかける。
野球部の柿原太一主将(3年)は控えだった昨夏、観客席で両部と一緒に応援した。「チャンスの時は盛り上げてくれ、ピンチの時も励ましてくれる。応援に応えられるよう、一戦一球に集中していきたい」
野球部が負けると、ブラスもチアも代替わり。球児と同じように3年生の「夏」はそこで終わる。「夏の応援は、自分たちの力を発揮する舞台でもある。一試合でも野球部が勝てるよう、力になりたい」とブラス部長の池田さん。野球部が勝てば勝つだけ、応援する彼女たちの活躍も続く。