雑誌「ワイアード」の創刊編集長、ケヴィン・ケリーさん=東京都千代田区のデジタルハリウッド、山本和生撮影
人工知能(AI)や仮想現実(VR)――進化の速度を上げる先端テクノロジーは、私たちをSFの世界に連れて行きそうだ。米シリコンバレーからITの最前線を30年以上見続ける編集者、ケヴィン・ケリーさんは「この変化はまだ始まったばかりだ」と語る。その目に、30年後の未来はどう見えるのか。
――スティーブン・スピルバーグ監督がSF映画「マイノリティ・リポート」(2002年公開)をつくる時、舞台となった2054年の社会を予測するため、専門家の一人として呼ばれたそうですね。
「監督は、未来の人々が朝食に何を食べ、どんな音楽をかけているか、具体的な暮らしを知りたがっていました。でも、私は『未来の風景は見た目ではほとんど変わりませんよ』と話したんです」
「変わるのは風景ではありません。未来社会では、AIがビルや自動車の中などいたるところで動いています。また、あらゆるものに半導体チップが埋め込まれ、ネットにつながっている。特殊なメガネを通せば、デジタル情報が現実の世界に投影され、二重写しで見えるでしょう。しかし、その風景を外から見ると、今と大して変わりがないんです」
「結局、これは採用されず、代わりに全身を使ってダンスのようにコンピューターを操作するアイデアが採用されました」
――1980年代から、シリコンバレーを拠点に一貫してITに最前線で関わり、90年代にはテクノロジー雑誌「ワイアード」の創刊編集長も務めました。この30年はどう変わり、予測できたこと、できなかったことはなんでしょうか。
「最も大きな変化は、情報の分散化です。企業などの組織も、ビジネスも、中心を持つ階層構造から、よりフラットで、分散するものになっていきました。その背後にあるのが、中心構造を持たないインターネットの広がりです」
「予測通りになったのは、まずネット上で、すべてが無料に近づいていくという流れ。そして、あらゆるものがネットでつながるというモノのインターネット(IoT)の広がりです」
「見通せなかったのがグーグルやウィキペディアの成功です。ネットを通じて、人々は大規模に協力や協働ができるようになった。両者の成功のカギは、それをうまくサービスに取り込んだ点です。でも当初、そんなことが可能だとはとても思えませんでした」
――AIやVRなど最先端のテクノロジーの新潮流から、2050年を見通した新著「〈インターネット〉の次に来るもの――未来を決める12の法則」が、中国や米国で注目を集め、日本でも7月末に出版されました。
「この30年間を見渡して、その予測可能な方向性をたどることで、30年後がどうなるかを、12のテクノロジーの潮流としてまとめてみたんです」
「この数年、AIなどの大きなテクノロジーの変化が一斉に起きています。様々な波が重なり合って大波になったようなものです。そして、テクノロジーの進化には、一定の予測可能な方向性があります。電気の発明が電話を生み、電話の先にインターネットが生み出されたように。その潮流を理解し、受け入れることで、最大限の恩恵を手にできます」
――新著でも取り上げたAIの…