避難指示が出る前、孤立集落の牛舎で牛の世話をする合砂哲夫さん=3日、岩手県岩泉町
豪雨被害で4日から全域に避難指示が出ている岩手県岩泉町は、牛の飼育が盛んな山村だ。孤立集落から避難した人の中には、育ててきた牛を置き去りにせざるを得なかった人もいる。
「こんなお別れで申し訳ない」。家畜業の中村博志さん(67)は4日、孤立した森山地区からヘリコプターで救出された。牛舎が流され、3頭のうち2頭が死んだ。残り1頭は崩れた牛舎の中で息はあったが、動けない。「次に会うときは亡くなっているだろう。どうしようもなかった」
近くの公民館に母と妻の3人で避難していた中村さんは、台風が通過した8月31日未明、暗闇の集落をヘッドライトで照らしながら牛舎まで歩いた。流木やがれきが流れる「ガリガリ、ゴーッ」という音が響く。たどりついた牛舎は崩れて流されていた。「だめか」。不意にヘッドライトの先で何かが反射した。2歳の雌が1頭だけ生き残っていた。9月20日に売り渡す予定だった。
死んだ2頭は土に埋めた。4日午後、ヘリに乗り込んだ中村さんは、空から牛舎を見つめて「ごめんな」とつぶやいた。
鼠入(そいり)地区の佐々木キ…