中学校の「制服」は必要?不要?
「中学校の制服」を必要だと思う人も、不要だという人も、制服の価格は高いと考えていることが、朝日新聞デジタルのアンケートからうかがえます。価格をめぐるアンケートの声と、メールをたどって取材した意見を紹介します。そもそも、制服について議論したいと記者が考えた背景には、一昨年に発生したある事件がありました。
【アンケート】中学校の制服、どう思う?
■きょうだいに同時の出費
東海地方の50代の女性は「子どもの成長を喜ぶより、春が来るのが怖く、死んで保険金が入れば楽なのかと思うこともあった」と言います。長男18歳、次男15歳、長女13歳で、いずれも3学年差。進学のタイミングが重なり、制服、体操服、上履き……と買いそろえなければならない春は、特に家計が苦しいそうです。
長男と入れ替わりで中学に入った次男には、お下がりの制服をと考えましたが、長男より胴回りが太いがっちり体形。ズボンは新調し、他は長男の友人らにお下がりをもらって間に合わせました。ただ、採寸時には「祖父母が『新品じゃなくちゃ』と援助してくれた」「お古を着せるなんて」といった声も聞こえてきたそうです。3人の中学入学時には、高校まで6年間の通学用自転車もそれぞれに購入。耐久性を考えると、6万円台になったといいます。
会社員の夫が昨年1月に発病、先月復職するまでは傷病手当と女性のパート収入での暮らし。今春は長男の就職、次男の高校進学、長女の中学進学が重なりました。通勤で車を使う長男の自動車教習所の費用、スーツ代、次男の高校受験料、公立高より先に合格発表があった私立高への手付金、部活の用具代、長女の自転車や指定品の購入……。80万円ほどかかり、夫婦の保険金を担保に借金するなどして工面したそうです。
女性は制服について「必要ないとは言わない。でも学校は不用品を集めて使い回す場を設けるとか、価格も販売店の言いなりではなく交渉するとか、保護者の負担軽減を考えてほしい」と話します。(三島あずさ)
■シャツなど、もっと自由に
大阪府の主婦(40)の話です。
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高校2年の長女、中学3年の長男、中学1年の次女、小学生の次男と三男の計5人の子どもがいます。
5年前、長女の中学入学準備の際には、制服や体操服、通学かばんや体育館シューズなど学校指定の物をそろえるだけで7万円かかりました。入学後も、夏服や水着一式に3万円かかりました。
次女には長女のお下がりをと思っていましたが、長男が中学に入学する年に学ランとセーラー服から男女ともブレザーに変わり、お下がりを着せることはできませんでした。入学式の半年ほど前の突然の変更で、急な出費に怒る親もいました。
そして入学して2カ月で夏服の申し込みです。校章の入った指定のポロシャツは1枚3千円します。買わないわけにいかないので仕方なく買いますが、黄ばんでくると買い直す必要があり、高くつきすぎると思います。
ベストやセーターは買うか買わないか自由ですが、校章入りで1枚4千円します。指定外のベストやセーターは禁止で、着せたいなら指定の物を買うしかありません。
確かに、制服だとみんなと一緒で華美になっていないという安心感はあります。ただ、中高が学ランであれば使い続けることが可能かもしれませんが、学校独自のブレザーだとそうもいきません。シャツやセーターなども、校章をバッジにしてつけるようにして、自由に商品を選べる仕組みにしてくれたら助かるのにと思います。(聞き手・後藤泰良)
■アンケートに寄せられた声は
アンケートに、制服の価格について多くの声が寄せられています。
●「公立中学でも、入学時に制服その他で10万円以上の負担。制服を指定するなら公費で支給して欲しい。貧困世帯でなくても家計の負担が大きい。規則で縛って押さえつける時代はもう古い。まずは大人が意識改革を!」(群馬県・30代女性)
●「子供が在学していた中学校では制服などのリサイクルが盛んで、PTA室に行けば、たいていバッグから体操服まで一式そろいました。無料です。多少汚れているものもありましたが、洗い替え用、あるいは卒業までの数カ月だけと考えれば十分使えます。指定のジャージーに名前の刺繡(ししゅう)が必須なのは、着回しができないのでやめたほうがいいと思っていました」(東京都・40代女性)
●「子供の中学校(公立)も、制服、体操服、上履き、かばん類が指定の物で、洗い替えのシャツを入れると10万円ほどになりました。違う物の使用・着用は、身だしなみ違反、忘れ物扱いにされます。シャツは白、ボトムスは紺、程度の決まりでもいいのでは。表現上は標準服ですし強制することはできないはずです」(大阪府・50代女性)
●「公立中の制服とは、『派手にならないよう』『コストがかからないよう』といった、生徒の教育環境や家計のコスト面からの要請だったはず。エンブレム入りのブレザー、アイドルのようなタータン柄のスカート、体操服に英語の筆記体で刺繍……などは、公立なのにやりすぎだと思います」(東京都・50代男性)
●「制服販売店です。3年間買い替えなしでお使いいただける制服もございます。簡単に伸ばせる機能付き学生服を販売しています。中間業者の少ない製造直販のお店を選べば、かなりお安く購入出来ると思います」(青森県・60代男性)
●「アメリカに住んで子供は公立学校に通っているが、制服はロゴなしの白、紺、灰色、黒のポロシャツ、カーキ色か黒、紺のスカートかズボン。学校指定があるわけではなく、衣料店で買う。新学期前のセールだとポロシャツ1枚500円、ズボンは1500円くらいで買え、洗い替えのため3~4着購入しても1万円でお釣りがくる」(海外・40代女性)
●「母子家庭で育ちました。最初の小学校は私服で、服のことで引け目を感じ、『○○ちゃんちは貧乏だもんね』と言われたこともありました。転校して制服になった時に、もう学校に着ていく服のことで悩まなくていいんだ、と安堵(あんど)した記憶があります。制服の初期負担が親にとって大きいのは事実でしょう。しかし、子どもの自尊心を傷つけないという意味においては、貧困の連鎖をたち切れるものかもしれないと思います。学校や教育委員会は自治体で統一し、価格交渉をするなどの取り組みも可能ではないかと思います」(長崎県・30代女性)
●「義務教育であるのに、制服を私費で購入しなければならない理由は存在しない。我が家はまだ中学入学まで猶予があるが、双子のため制服代だけで20万円近い出費である。例えば定額での貸与など、負担を少なくする方法を積極的に考えるべきである」(茨城県・40代男性)
中学校の制服は1970年代まで詰め襟、セーラー、紺の無地ブレザーが大半でした。しかし、変形学生服が流行した80年代を経て、ブレザー化、デザインの多様化の流れができます。少子化に伴う統廃合や学区を越えて学校を選べる制度の普及に伴い、公立中学も特色を打ち出し、制服の仕様もその学校だけのものが選ばれるようになりました。
多くの公立中学の場合、制服は「標準服」「奨励服」などと、強制しない位置づけになっています。しかし、実際にはエンブレム付きの上着、細かなチェック柄のスカート、校章付きのシャツを導入するなど、購入先の限られている場合が大半です。こうしたデザインが学校間に大きな価格差をもたらしています。
14年秋、千葉県で困窮の末、母親が娘を殺害した事件がありました。母親は娘の公立中学の制服代などを工面するため、ヤミ金融から7万5千円を借りていました。
事件をきっかけに、制服の価格差の実態を明らかにするため、今年3月から4月にかけ、ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)で保護者に制服価格の情報提供を呼びかけました。集まった公立中学111校の制服価格は3万円台から7万円台までという差がありました。この実態について8月20日の朝刊で報じました。
記事には、100を超すメールや手紙が寄せられました。
価格にとどまらず、幅広い視点で制服について議論し、そのあり方や改善点を皆さんとともに考えたいと思います。(錦光山雅子)
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